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マネジメント

第7話「葉を見て木を見ず」

楠木建の「経営知になる考え方」

企業の「戦略」にこそ注目するべきだ

 著者が所属している一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻では、2001年から「ポーター賞」という賞を主催している。ポーター賞は「独自性のある戦略によって優れた業績を上げた日本の企業(もしくは事業)」を表彰する賞だ。単に優れた業績の企業を表彰するわけではない。ポーター賞は単純な業績の良し悪しではなく、「戦略が優れているがために、好業績になっている」という、優れた業績の理由にこだわっている。これがほかの賞と違うユニークな点である。もっと企業や事業の「戦略」に注目するべきだというメッセージを社会に向けて発信する。ここにポーター賞の意図がある。

 前回「森を見て木を見ず」という話をした。戦略(木)は外部からは理解しにくい。表層にあるマクロの景気や業界の特性(森)と比べて、深層にある個別企業の戦略はより複雑であり、ワンフレーズやお決まりの尺度では把握できない。ある企業の戦略をきちんとつかむためには、ぱらぱらと新聞や雑誌、ネットの記事を見ているだけではまるで不十分で、相当の手間暇をかけなければならない。

 

戦略を描く時も、個別の戦術に意識を引っ張られてはならない

 その一方で、「個別企業の戦略に注目しましょう」というと、一足飛びに「葉を見て木を見ず」となってしまうことが多い。木(戦略全体)をとらえようとせず、葉(ぱっと目につく個別の施策)をいくつか見るだけで戦略を理解したつもりになってしまうという成り行きだ。新聞や雑誌の目立つところに取り上げられるような、最近の大きな意思決定(たとえば「海外企業を買収」とか「新技術の開発に成功」とか)や耳目を集める「葉」だけを見て理解した気になってしまう人が実に多い。これでは「葉を見て木を見ず」。優れた企業に独自の戦略を理解することにはならない。

 2011年にポーター賞を獲得したコマツの例でいえば、「いち早く中国市場に進出」「コムトラックスというリアルタイム車両管理システムの導入」が葉に当たる。こうしたことは確かに大切な構成要素ではあるが、要素に過ぎない。そもそも戦略が一言で表現できるようなものであれば、他社にすぐに模倣されてしまう。独自性を失い、戦略が戦略でなくなる。

 コマツの戦略にしても、製品と部品をグローバルに標準化したり、中国などで地域の小規模ディーラーを時間をかけて組織化したり……と説明すれば切りがないが、さまざまな要素の絡み合いをよくよく見ると、競合のキャタピラーとまるで違っていることがわかってくる。木の全体をじっくり読み解いて初めて、持続的な利益が出ている理由がみえてくる。うまくいかないときにこそ、外部環境や業界構造のせいにするのではなく、戦略と関連づけてその原因を特定することが大切になる。そうしないと、次につながるきちんとした対策を打ち出すことができないし、環境の変化にも対応できなくなる。

 

漫然と森を眺めるのではなく、木に目を向ける

 パンデミックのような大きな外的ショックに直面すると企業の地力が鮮明になる。洋服業界にとってコロナ禍は逆風だが、ZARAやH&Mなどファストファッション企業の業績が悪化する中で、ファーストリテイリングのユニクロ(2009年のポーター賞受賞企業)はグローバル競争における地位を相対的に高めた。

 ファストファッションの逆を行くユニクロは、普通の人々の日常生活を快適にする「ライフウェア」というコンセプトの下に、素材の開発から店頭まで一気通貫で価値をつくり込む。この独自の戦略がコロナ下の新しいライフスタイルの需要を惹きつけた。

 底力を見せつけた例だが、ポイントはパンデミックへの「対応」の巧拙ではない。コロナ以前から練り上げてきた戦略が図らずも真価を発揮したというのが実相だ。コロナ対応だけを見ていては競争優位の正体は分からない。優れた戦略は様々な打ち手が蓋然性の高い論理でつながった「ストーリー」になっている。個別の商品や施策は戦略ストーリーの構成要素に過ぎない。

 漫然と森を遠くから眺めているだけではアクションは生まれない。目につく葉を一枚二枚見ただけ分かったつもりになるもの早計だ。木(戦略)に目を向ける。これが経営者の思考の中核にあるべきだ。

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