いま,「ウェルビーイング」、「ウェルビーイング経営」という言葉が特に注目されています。2021年には,Well-being経営をテーマに日経Well-beingカンファレンスが開催されました。また,経済誌ハーバード・ビジネス・レビューでもウェルビーイングに関する記事が頻繁に取り上げられています。今やもっともホットなワードともいえるウェルビーイング経営に,今日は,入門から取り組み実践までお伝えします。
1 ウェルビーイングとは何か―happyとの違いー
そもそもウェルビーイングとはいったい何でしょう?近い言葉としては,happy・happinessなどがありますが,これらは,「嬉しい」「楽しい」といった,一時的なポジティブ感情を示しています。
一方,ウェルビーイングとは,一時的な感情にとどまらず,持続的な善い状態を指しています。では,持続的な善い状態とは具体的にどんなものなのか。そのヒントのひとつが,世界保健機関(WHO)憲章の前文の一節にあります。
「健康とは、単に病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態(well-being)にあることをいいます。」(日本WHO協会訳)“
(1)肉体的に善い状態
WHOは,「肉体的」,「精神的」,「社会的」という3つのキーワードが挙げています。
「肉体的」なウェルビーイングとは,文字通り身体の健康を指します。ここには,運動や食事,睡眠を整えるといった,自分の身体的な健康を大事にすることも含まれます。経営者にとっても,身体は一番の基礎ですね。
(2)精神的に善い状態
「精神的」なウェルビーイングとは,全体として心の状態がよく,安定して人生を歩いていける状態です。
人生には,楽しいこと,嬉しいこともあれば,とんでもなく大変なこと,悲しい出来事も起きます。特に経営者としての人生では,思わぬ苦難に出会うこともあるでしょう。そんな時に,苦難や悲嘆の感情に飲み込まれることなくそれを乗り越え,人生の幸せのかじ取りができる状態,これが精神的に善い状態といえるでしょう。
(3)社会的に善い状態
「社会的」に善い状態とは,社会の中で,孤独や貧困に陥ることなく,周囲とあたたかくつながっている状態を示します。ここでいう「社会的」とは,わたしたちが所属する共同体(集団)すべてが含まれます。
たとえば,子どもにとって,学校は自分が属している共同体,つまり「社会」です。学校でいじめを受ければ,学校はとてもつらい場所になります。この場合,その子どもは,社会的に善い状態とはいえません。また,働く人にとって,会社や仕事関係は重要な「社会」です。ハラスメントを受けたり,孤立しているならば,それも社会的に善い状態ではないのです。言い換えると,経営者が職場環境を整え,安心できる場所にしていくことは,社会的なウェルビーイングを実現することでもあるのです。
このような広い意味での善い状態を,一言で表現した言葉が「well-being(ウェルビーイング)」です。では,ウェルビーイング経営とはどんなものを指すのでしょうか。