menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

交渉力を備えよ(14) 小村寿太郎の賠償へのこだわりとルーズベルトの苛立ち

指導者たる者かくあるべし

 ポーツマスにおける日露講和交渉は、2か月に及んだ。
 
 韓国の保護国化とロシアの不干渉など、前回述べた日本側の「絶対的必要条件」については、ロシア側が次々と折れた。ロシア全権大使のウイッテとしては、焦点を領土要求と賠償の拒否に絞り込んでいる。
 
 仲介に立った米国のルーズベルト大統領は、賠償にこだわり戦争継続も辞さずと頑なな日本の全権・小村寿太郎の姿勢に次第に苛立ちを募らせた。
 
 ウイッテが取った新聞抱き込み工作が効果をあらわし、日を経るごとに米国内の世論が「和平を望まぬ日本」として反日に傾いていくのを大統領として無視するわけにはいかない。
 
 業を煮やしたルーズベルトは、伊藤博文の側近として日露開戦後に渡米し、米国との交渉にあたっていた金子堅太郎男爵を通じて、日本政府中枢に対して「もはや日本は金を取るために戦いを続ける意味はない。平和に対する文明社会の期待に応えてほしい」と通知した。
 
 これに対して小村は反発し、「今こそ戦争を続けるしかない」と東京に打電した。満州からは、児玉源太郎・満州軍参謀長が、「もう一兵の予備もない。継戦不可能」と繰り返し伝えてきていた。
 
 閣議では、大蔵省は「これ以上、戦費は出せる状態ではない」と妥協を具申した。軍からも寺内正毅陸相まで、「士官が欠乏しており、これ以上戦えない」という意見を表明。政府は、「賠償放棄、和平」の方向で一致した。
 
 小村は全権大使として、日本政府の事態収拾への強い意思を完全に読み違えたのであった。というより小村の反抗は、政府内タカ派として「厳しい国際情勢をわかっていない。国益のため自分がリードするしかない」と信じる確信犯であった。
 
 交渉にあたる全権の立場を超えている。だれを交渉人に選ぶか、本国(本社)とどうスムーズに意思疎通を図るかが、国際交渉の肝である。
 
 小村には、頭越しで日米政府が進める妥協の動きに、「米国は、アジアでの日本の伸長を抑えこんでロシアに変わって満州に権益を得ようとしている」という強い反発があった。
 
 賠償は得られなかったが、ルーズベルトの斡旋もあって日本は交渉の最終局面でサハリン(樺太)の南半分の割譲を勝ち取った。
 
 客観的に見れば、交渉結果はまずまず、日本の粘り勝ちでもあった。
 
 しかし失意のうちにポーツマスを発った小村は直後に、外相として、この後四十年ひきずるアジア外交敗着の一手を打ってしまうのである。 (この項、次回に続く)
 
 
 ※参考文献
 
『『小村外交史 下』外務省編纂 日本外交文書頒布会
『全譯ウイッテ伯回想記』大竹博吉監修 ロシア問題研究所
『日露戦争史』横手慎二著 中公新書
『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦著 PHP文庫
『日露戦争勝利のあとの誤算』黒岩比佐子著 文春新書
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉力を備えよ(13) 要求の優先順位を読まれる前のページ

交渉力を備えよ(15) 満州利権へのこだわりが招いた失策次のページ

関連記事

  1. 挑戦の決断(5) 体制永続の後継システムを確立する(徳川家康)

  2. 交渉力を備えよ(2) 「私」に報いるに「公」をもってせよ

  3. 交渉力を備えよ(40) 権限を集中する

最新の経営コラム

  1. 第133回 明るい顔で印象アップ。照明機能搭載WEBカメラ

  2. 第19回 生産性向上の「ストーリー」

  3. 第8回 今月のビジネスキーワード「サブスクリプション」

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. マネジメント

    第129回 『頼る』
  2. 税務・会計

    第63号 BS「格言」 其の十四
  3. 仕事術

    第125回「USBメモリの音声データをスマホに取り込む方法」
  4. 製造業

    第255号 東証一部の隠れた高収益企業・チノーのチョコ案改善とは
  5. ビジネス見聞録

    経営に役立つ「色」の世界〈パーソナル編1〉「社長の外見は、無意識に人を動かす~社...
keyboard_arrow_up