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人の心を取り込む術(19) 人物をじっくりと見定めて使う(楚の荘王)

指導者たる者かくあるべし

 三年飛ばず泣かず

 古代中国の春秋時代、統一王朝の周は権威として存続していたが、各地で諸侯が干戈(かんか)を交えて覇を競っていた。長江流域にある楚の国で荘王(そうおう)が王位に就いた。
 しかし荘王、即位後三年間は、号令を発することもなく国政をおろそかにして享楽に身をやつしていた。しかも、国中に「わしを諌(いさ)めるものがあれば、死刑に処す」とお触れまで出した。王を恐れて誰もあえて忠告せずに時が過ぎた。最悪の暴君である。
 群雄が割拠するご時世で三年間はあまりに長い。国が滅びる危険が増す。ついにたまりかねた伍挙(ご・きょ)という重臣が、なぞかけの形で荘王に意見した。
 「丘の上に鳥がおります。三年もの間、飛びもせず鳴きもしません。これは何という鳥でしょうか」。精一杯の皮肉の積もりだった。
 王は、両腕に女を抱き抱えたまま答える。「三年のあいだ飛ばないが、飛べば天まで上るだろう。三年のあいだ鳴かないが、鳴けば人を驚かすだろう。お前の言いたいことはわかっておる。下がってよい」。
 伍挙は、意見が通じたと思ったが、何か月経っても王の遊びは収まらない。今度は大夫の蘇従(そ・しょう)が、直言して諌めた。すると王は、「お前はお触れを知らないのか」と蘇従を叱責した。彼には覚悟がある。「いいえ、こればかりは申し上げずにはおられません。命を差し出しても、わが君を賢明にしたいのが、私の願いです」ときっぱり言い切る。
 これを機に荘王は、享楽生活に終止符を打って国政に専念するようになる。

 上に立つ者の器

 王が手始めに着手したのが人事だった。数百人を殺し、左遷し、数百人を登用した、と『史記』は書いている。伍挙と蘇従を特段に重用し、人民政策を立案、担当させた。「人民たちは大変に喜んだ」とある。
 荘王はこの時を待っていた。司馬遷はそこまで書いてはいないが、荘王は、中原へ攻め上るのを前に、遊び呆けたふりをしながら、臣下をじっと観察しつつ人物を見定めていたのだ。だれが使えるか、能力があるのはだれか。あいつは媚びへつらうだけの人物だ、等々。
 王とまで言わずとも、強大な権力を伴う組織経営者、リーダーの周囲には、耳に心地よい甘言だけを囁くイエスマンが群がるものだ。その言に従っていては重大な局面で判断を誤る。
 時には耳に痛い「諫言」を言える部下を持つことがリーダーの必須条件である。
 「なあに、今、隣国に攻め入れば、48時間以内に敵の首都を陥落させられます」などというイエスマンの甘言にのせられて取り掛かった侵攻作戦が思い通りに進まなくなるや、今さらながらに司令官、側近の首をきりまくっているどこかの大統領のようでは、兵はついてこない。勝利は覚束ない。
 荘王の時代、それまで南の蛮族と蔑まれていた楚の国は、次々と隣国を陥れ、北の黄河流域まで版図を広げ、覇を唱えるまでになったのは故なしとはしない。上に立つ者の器の大きさを荘王は持っていた。

 掛けた情けは倍になって返る

 荘王の器の大きさを垣間見せる、こんな逸話も残されている。
 ある夜、王は多くの臣下を集めて慰労の宴会をはじめた。「今宵は無礼講だ。心置きなく飲んでくれ」。宴がたけなわになり、大風が吹いて灯りが消えた。暗闇の中で王の愛人に手を伸ばして戯れかかった男がいた。驚いた愛人は悲鳴をあげて男の冠のひもを引きちぎり、王に訴える。「不届きものは、冠のひものない男です。処罰なさいませ」と。すると荘王は、明かりが灯る前に、「無礼講はわしが命じたこと。士を辱めることはできない、さぁ」と、暗闇の中で臣下全員の冠のひもを切り捨てさせた。宴会は続いた。
 それから数年、楚は大国の晋と戦火を交え、散々に晋軍を打ち破り中原の覇者となる。この戦いで、常に先陣を切り、味方を勝利に導いた勇士がいた。荘王は男を呼び寄せて尋ねた。「恥ずかしながら、こんな勇者がわが陣にいるとは知らなかった。不明を許してくれ。然るべき待遇をしてこなかったわしのために、なぜそこまで命を投げ出してくれたのか」。
 男は言った。「私は一度死んだ者です」。問わず語りで男は続ける。「酒に酔って無礼を働いたときに王のお情けで生きながらえ、それからというもの、身命を賭して御恩に報いることだけを願い続けておりました。あの夜、冠のひもを引きちぎられたのは私めでございます」。
 理由なく戦場で命を懸ける兵士はいない。リーダーの度量の大きさに兵卒は応えるのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『世界文学大系5A 史記★』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』曾先之著 今西凱夫訳 三上英司編 ちくま学芸文庫

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