menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

危機を乗り越える知恵(12) 天武 決起のタイミング

指導者たる者かくあるべし

 天皇・天智は息子の大友を後継に指名して世を去った。
 
  「いま立ち上がらねば野たれ死にだ」。大友にとって即位の邪魔者となった叔父の大海人(おおあま)は吉野の山里にこもって焦る。
 
  相手は絶大な権限と軍を持つ近江朝廷、自らには兵もいない。
 
  吉野に下った大海人(おおあま)に付き従った側近はわずか10人にすぎない。
 
  当面の身を守るのは、身をやつした出家の立場のみ。それとても兄・天智の大喪作業がすめば、その子、大友が公式に皇位に就き軍を差し向けるだろう。
 
  それから決起したのでは皇位簒奪、反逆の汚名を着ることになる。
 
  決起のタイミングがかぎを握っていた。大海人の情報収集が始まる。
 
  畿内の大豪族は朝廷方についたが、不満をかこつ地方豪族はどうか。
 
  大海人の直領地として密接なつながりのある美濃の安八磨(あはつま)郡からは秘かに兵供出の約束も取り付けた。
 
  天智崩御から半年後。その美濃から、「朝廷が天智陵造成のための労役を募集している」との情報が届いた。当時、労役は軍役に等しい。
 
  近江と吉野の間の宇治川で、朝廷が吉野への食糧運送の荷を止めているとの通報も。しびれを切らした大友が動き出したのはまちがいない。
 
  「いかに黙して身を亡ぼさむや(このまま黙って滅ぼされてたまるか)」と、この時、大海人は決断の一声を上げたと日本書紀は伝えている。
 
  大海人は、馬の手当も待たず吉野を脱出した。付き従うのは妃(後の持統天皇)、皇子・草壁のほか、男女30人に過ぎなかった。
 
  この稿で何度も強調してきたが、危機脱出の成否を握るのは、的確な情報に基づく情勢判断と迅速な行動、そして明確な目標にある。
 
  「甥とはいえど大友を討つ」と目標を定めた大海人の決断と行動は速かった。
 
  吉野から宇陀へ山道を抜け、そこで伊勢から飛鳥へと荷を運ぶ馬50頭と出会う幸運も呼び込んで、この馬に乗る。
 
  猟師の先導で名張、伊賀へと間道を松明を掲げて徹夜で駈け抜けた。
 
  地図でその行程をたどってみると、約100キロを15時間で走り切っている。
 
  孫子の兵法が説く「疾(と)きこと風の如し」。
 
  672年6月24日のことである。   (この項、次週に続く)
 
 
 ※参考文献
   『日本書紀(五)』岩波文庫
  『壬申の乱』遠山美都男著 中公新書
   『清張通史5 壬申の乱』松本清張著 講談社文庫
   『日本の歴史2 古代国家の成立』直木孝次郎著 中公文庫
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危機を乗り越える知恵(11) 壬申の乱と天武の決断前のページ

危機を乗り越える知恵(13) 天武の「謀反の兵法」次のページ

関連記事

  1. 交渉力を備えよ(11) ロシアの対米世論工作

  2. 人を活かす(8) 上杉謙信の新人抜擢術

  3. 危機への対処術(3) 後継指名の混乱(武田信玄)

最新の経営コラム

  1. 第221話 令和7年の税制改正

  2. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳 2025年1月15日号

  3. 第50話 採用初任給の大幅な引上げにどう対処するか

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 社長業

    Vol.129 「全社員を束ね直す」
  2. 社員教育・営業

    第48話 成長課題 管理職の部下育成術(48)
  3. 教養

    2017年10月号
  4. 社員教育・営業

    第76講 クレーム対応成功の法則はまず『親身的対応7つの手順』で運ぶこと(4)
  5. マネジメント

    決断と実行(10)日本海海戦
keyboard_arrow_up