menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

危機を乗り越える知恵(11) 壬申の乱と天武の決断

指導者たる者かくあるべし

 「大王(おおきみ)がお呼びです。物言いには気をつけられませ」。
 
 7世紀後半、独裁権力をほしいままにした天皇・天智は琵琶湖のほとり、近江の大津の宮で瀕死の床にあった。天智の弟、大海人(おおあま、後の天武天皇)は親しい使者から宮殿に呼び出しを受けた。
 
 「わしも永くはない。皇位を継いでもらえるか」。病床の兄の言葉に大海人はとまどった。
 
 天智はこれに先立ち息子の大友(おおとも)を太政大臣に据え、だれの目にも大友後継の布石に見えた。
 
 「心変わりか、それならば」と一瞬心が動いたが、気ごころを知った使者のひとことが気にかかった。
 
 「物言いに気をつけよ」。罠だと悟った。
 
 応諾すれば「謀反の心あり」として斬り殺される。数十年の間、皇位継承をめぐっては、同じ謀略が繰り返されて来た。
 
 「私も病がち、とてもその任には」と兄の申し出を断り、「きょう出家して仏道に入る」と言い残すと控えの仏間ですぐさま剃髪し、皇太弟として託されていた武器を国庫に戻し、吉野の山を目指した。
 
 「仏門に入ったとなれば、無茶な追い討ちもできんな」と兄は考えつつも、吉野に下った弟の動静監視を怠らなかった。
 
 弟は写経、読経三昧で二心のないことを見せる。こう着状態のままで翌々月、天智は崩御する。
 
 後継者を血縁から選ぶにしても、側近として経験豊富な弟にするか、若くとも決して裏切ることのない息子とするか、だれしも迷う。親なれば子への想いはひとしおのものがある。
 
 と書けば、どこにでもある下世話な跡継ぎ争いになってしまうが、大海人には、後継争いを越えたより大きな国家像が見えていた。
 
 兄は軍事クーデターで大豪族の蘇我氏を滅ぼし(645年)、翌年断行した大化の改新で皇族中心の律令国家を目指したものの改革は中途半端で、特権を取り上げられた豪族たちの巻き返しにあっている。
 
 百済一辺倒の朝鮮半島外交では、唐・新羅の挟撃にあって滅んだ百済の再興をしゃにむに支援し、白村江の戦い(663年)で派遣した水軍が惨敗を喫して、唐の本土追撃におびえ、飛鳥の都まで放棄した。
 
 「これでいいのか」。常に兄に寄り添い従ってきた大海人は、激動する国際情勢を思うにつけ、「今こそ大胆な国家改造が求められている」と、読経三昧の吉野で考えていた。(この項、次週に続く)
 
 
 ※参考文献
   『日本書紀(五)』岩波文庫
  『壬申の乱』遠山美都男著 中公新書
   『清張通史5 壬申の乱』松本清張著 講談社文庫
   『日本の歴史2 古代国家の成立』直木孝次郎著 中公文庫
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危機を乗り越える知恵(10)チャーチルの準備された楽天主義前のページ

危機を乗り越える知恵(12) 天武 決起のタイミング次のページ

JMCAおすすめ商品・サービスopen_in_new

関連記事

  1. 万物流転する世を生き抜く(48) 将を射んと欲すれば先ずその馬を射よ

  2. 交渉力を備えよ(4) 勝海舟の瀬戸際外交。脅しは本気でなければ通じない

  3. 逆転の発想(7) 不器用は強い(野村克也、小川三夫)

最新の経営コラム

  1. 相談7:含み損のある土地があるのですが、別会社で買うのがいいか、個人で買うのがいいか、どちらでしょうか?

  2. 第9回 注意しても部下が変わらないのはなぜか? ~原因は人ではなく仕組みにある~

  3. 第146回 地味ながら世のクラウド化の追い風を受けて高成長を遂げる サイバーリンクス

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 健康

    第44号 夏になると体臭が気になる
  2. キーワード

    第24回 「≪2013年日本最大のイベント≫伊勢神宮「式年遷宮」とは?」 ~...
  3. 税務・会計

    第61号 BS「格言」 其の十二
  4. 人事・労務

    第57話 「最低賃金で働く人たち」とはどのような人材なのか 〜制度と慣習に埋もれ...
  5. 経済・株式・資産

    第19話 経済減速が続く「巨艦」中国の次の一手は?
keyboard_arrow_up