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人事・労務

第50話 採用初任給の大幅な引上げにどう対処するか

賃金決定の定石

 最低賃金の大幅な引上げや人材獲得競争の激化によって、採用初任給も急速に上昇しています。世間相場や同業他社の状況を意識し、かつ社内の賃金バランスにも配慮しながら、自社が目標とする初任給水準を実現していくことは、中小企業にとっては難しさを伴う実務作業といえるでしょう。


 採用初任給の高さだけで採用が円滑に進むということではありませんが、少なくとも“世間並み”の初任給を提示しなければ良い人材を集めることはできません。“世間並み”を見極めるのは容易ではありませんが、各都道府県人事委員会が公表する民間企業の給与実態に関する資料が、最も実態を反映していると考えられます。連合の春闘関連資料も、前年比の動向を掴むには有効です。


 2024年春闘での採用初任給の改定状況(連合調査)は、大卒で12,000円ほど上昇しました。99人以下の会社でも9,600円ほど上昇していますので、企業規模にかかわらず、初任給が大きく引き上げられたことが分かります。

 

(連合:2024春季生活闘争 第7回回答集計,2024年7月3日)

 

【採用初任給の引上げ方】

 採用初任給を引き上げるための、最も望ましい方法はベースアップ(ベア)です。
 特に若手社員を中心に効果的にベアを実行するには、基本給に定額加算をし、賃金表自体をシフトアップするのが基本です。ただし、“世間並み”は前述のように1年で12,000円も上昇していますから、定額ベアだけで対処しようとすると総額人権費が急激に膨らんでしまいます。


 今般の状況下では、年長者や上位等級者までもが上がりすぎないよう、基本給の定額アップをする一方で賃金カーブの傾きが緩やかになるように修正し、総額人件費が上がりすぎないようすることも必要です。


 ただし、もともと昇給幅が小さく賃金カーブが緩やかな会社や賃金水準の低い中高年社員が大勢いる会社の場合、年長者や上位等級者への更なる賃金抑制はモチベーション低下に繋がり兼ねず、要注意です。

 

【初任給調整手当の活用】

 基本給とは切り離して採用初任給の調整を行う方法として、初任給調整手当があります。目標とする採用初任給の金額と、採用初任者の基本給額との差が「初任給調整手当」の設定額です。


 あくまでも一定期間を対象とした水準是正のための臨時手当ですから、次年度以降が段階的に減額し、最終的にはゼロ(不支給)とします。この方法でも大幅な採用初任給の上昇に対応しようと高額な手当額を設定すると、その消却までの年数が長くなることで実質的な昇給額が抑制されるというデメリットがあります。


 仮に初任給調整手当が12,000円なら、毎年2,000円ずつ減額していっても、消却までの年数は6年かかる計算です。その間にさらに初任給が上昇すれば、追加で初任給調整手当の増額を考える必要に迫られるかもしれません。


 なお、調整手当はその入社年度の新入社員だけでなく、消却期間内にある大卒・先輩社員にも、勤続期間に応じた手当を支給するのが基本的な運用方法です。これによって、先輩社員との適正な賃金差を維持しながら、初任給の水準を引き上げていくことになります。

 

【まとめ】

 ベースアップアップは、賃金表(基本給月額表)自体の水準を引き上げることですから、適正なベースアップを継続されている限りは、先輩社員とのバランスが崩れることはありません。


 ただし、採用初任給の賃金テーブル上の対応号数を引き上げるなどして、その場しのぎの対応をした場合には、先輩社員との賃金バランスもいっきに崩れることになります。このような安易な対応は絶対にしてはいけません。
 

 採用初任給の大幅アップに向けた対処法としては、前掲の事例のとおり、定額加給によるベースアップと初任給調整手当を併用していただくことをお勧めします。

 

以上

第49話 統計データと自社水準とを比較する際に注意すべきこと前のページ

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