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永続企業の知恵(7) 商機をつかむ才覚(鈴木商店)

指導者たる者かくあるべし

 番頭・金子直吉の登場

 第一次世界大戦で急成長し、一時は三井・三菱という大財閥の年商を上回った鈴木商店だが、明治初期に神戸で創業した砂糖輸入商社にすぎなかった。その爆発的とも言える発展は、番頭である金子直吉(かねこ・なおきち)の才覚抜きには語れない。


 鈴木商店を神戸の八大貿易商にまで育て上げた初代の鈴木岩治郎(すずき・いわじろう)が1894年に急逝すると、妻の鈴木よねが店主を継いだが、経営は二人の番頭に委ねた。初代の岩治郎も前身だった大阪の砂糖商の主人の死で神戸支店を譲られた経緯がある。それにならったかどうかはわからないが、よねは「君臨すれども統治せず」の道を選んだ。大阪系商人の世界ではよくある代替わりの方法である。


 丁稚(でっち)上がりの金子は当初、砂糖、茶などの取引を担当していたが、医薬品、セルロイドの材料でもある樟脳(しょうのう)の国際的将来性に気づいた。持ち前の行動力で直ちに世界最大の樟脳産地だった台湾へ赴き、台湾総督府民政長官の後藤新平に食い込んだ。台湾統治の財源捻出に苦心していた後藤に樟脳の将来性を説き、金子は独占販売権を手に入れる。これが鈴木商店飛躍の足がかりとなった。

 

 

 戦時には鉄を買え

 商機をつかむ才覚に三つの条件がある。

  ① 確かな情報に基づく判断
  ② 他社に先駆けて動く行動力
  ③ 要路の人脈の確保


 言わずもがなであるが、①に関しては往々にして「経営者の勘」だという人がいる。だが勘に頼っていては経営できない。確かな情報という裏付けがない判断は錯誤と混乱を招く。金子の才覚を示すもう一つの逸話がある。鈴木商店の発展を揺るがぬものにした、鉄の買い付けだ。


 1914年7月に第一次世界大戦がはじまると、海外支店からの報告と国内で収集した情報から、戦争が長引き世界規模で物資不足が起きると判断した金子は、社内に「商品船舶に対する一斉買い出動」を指示した。短期で戦争が終われば、売れない商品を抱えて大損失が出る。他社が躊躇している間に、鈴木商店は買いまくった。開戦初期にすでに、「この戦争は短期で終わらない」という正確な外交情報を手にしていたからこその決断だった。


 とくに軍備で需要が増す鉄に目をつけ、ロンドン支店長に異例の電文を送っている。

 「Buy any steel,any quantity,at any price.」(鉄と名がつけば何だって、量に関わらず、高くても買いまくれ)。

 ほどなくして、銑鉄、鋼材、船舶、砂糖、小麦などは暴騰する。鈴木商店は1億数千万円(現在の価格で約1兆円)の巨利を得た。

 

 

 日米民間通商交渉に乗り出す

 1917年にそれまで中立だった米国が参戦し、米国から戦略物資である鉄鋼の禁輸措置が取られると日本の産業界は悲鳴をあげた。当時、わが国の鉄鋼の自給率は34%に過ぎなかった。鉄がなければ造船業は船がつくれない。船が供給されないと貿易立国の生命線である海運が滞る。経済界は戦争特需のチャンスから取り残されてしまう。


 まずは、政府が禁輸措置の解除を求めて米国と交渉に乗り出すが不調に終わった。そこで金子は、同じく神戸を拠点とする川崎造船所の社長を伴って米国へ乗り込んだ。「米国が鉄鋼の禁輸を解いてくれたら、日本の造船所でつくった船舶の一部を米国に輸出する。どうか?」。本格的に参戦した米国は、欧州への軍需物資、兵員の輸送に使う船舶は一隻でも欲しい。鉄と船を取引した。商社の発想である。


 米国政府は鉄鋼の対日輸出を許可した。政府が失敗した交渉を民間が解決するという快挙だった。もちろん船の発注者であり、海運の荷主でもある鈴木商店にも利益が転がりこむ。


 決して商機は逃さない。それが金子流だった。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』菊地浩之著 平凡社新書
『財閥の時代』武田晴人著 角川ソフィア文庫

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