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情報を制するものが勝利を手にする(6)
勝ったエリザベスの失策

指導者たる者かくあるべし

 英仏海峡のカレー沖に投錨したスペイン無敵艦隊総司令官のシドニア公は気が気でなかった。落ち合うはずのパルマ公率いるオランダ駐留軍が姿を見せないのだ

 敵の眼前での滞留は得策ではない。だれでもわかる。しかし陸軍部隊が合流、搭乗しなければ、英本土上陸作戦は成立しない。

 乗組員たちも苛立ち始める。そこへ陸上から伝令が届いた。「兵も弾薬もまだ準備できていない」

 シドニア公は、浮足立つ乗組員をなだめるために虚報を流すしかなかった。「明日の朝、兵たちはやって来る」。

 西風はますます勢いを増してきた。

 焦りは風上に投錨した英国艦隊も同じである。無敵艦隊が錨を上げれば、夜陰に乗じて遁走を許してしまう。

 英国側は火をつけた小舟やいかだを風上から無敵艦隊に向けて放つ「火船攻撃」の準備をドーバー港で進めていたが、間に合わない。

 洋上での作戦会議で海賊のドレークが大胆な提案を行う。「火船攻撃なら小舟より、私の艦隊から大きな船を提供しよう」。同じく海賊のホーキンズも船の提供を約束した。

 7月29日未明、90トンから150トンの大型の火船8隻が放たれる。猛火に包まれた船の出現に、強風をやり過ごすために互いをロープで結び合っていた無敵艦隊は大混乱に陥る。

 われ先にとロープを切り錨を上げて、東へと流れていく。無敵を誇った艦隊もこうなると、戦列を組むこともなく、単なる烏合の衆となる。英国艦隊の追撃を交わし、大ブリテン島を反時計回りに落ちのびていく。一隻一隻、砲撃の餌食となり、また慣れない北の海の荒波に翻弄されて座礁しながら。

 スペイン本国へ帰還したのは、130隻のうち60隻のみ。約8000人の兵員、船員を失った。

 英国はスペイン軍来襲の危機から脱した。しかし、この話には続きがある。

 “勝利”に酔う女王エリザベスは、ドレークの海賊艦隊に命じて、スペイン本土の港を繰り返し襲撃させるが、思うように戦果は上がらない。両国の戦争は続き、16年後の1604年になってようやく痛み分けの形で和平が成立した。

 最終的な勝利に持ち込めなかったエリザベスは大きな過ちを犯していた。勝利は、高い戦意と帆船の攻撃能力の差だと誤解した彼女は、ウォールシンガムが指揮する諜報活動の予算を大幅に削減して軍備に振り向けた。

 もはや、スペイン国内の最新情報は届かなくなっていたのだ。

 国家、組織の運営にあたって、「情報は兵に勝る」とはこのことである。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『アルマダの戦い スペイン無敵艦隊の悲劇』マイケル・ルイス著 幸田礼雅訳 新評論
『世界史をつくった海賊』竹田いさみ著 ちくま新書
『エリザベスⅠ世 大英帝国の幕あけ』青木道彦著 講談社現代新書
『物語スペインの歴史 海洋帝国の黄金時代』岩根圀和著 中公新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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