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国のかたち、組織のかたち(97)非対称戦略②(ベトナム戦争)

指導者たる者かくあるべし

 分断二国家の激突

 イランの核兵器開発計画阻止を目指してイスラエルとともに大規模な奇襲空爆に踏み切った米国のトランプ政権と米軍は、非対称戦略を駆使するイランを屈服させることもできず、停戦協議もイランに主導権を握られて膠着し、引くに引けない事態に陥っている。米国は対外戦争において非対称の非正規戦(ゲリラ戦)で対抗する敵に屈辱の敗北を喫したトラウマを今でも抱えている。ベトナム戦争である。

 米国が主役に躍り出るベトナム戦争は、第二次世界大戦後も宗主国として引き続きインドシナの植民地支配にこだわったフランスが社会主義者ホーチミンが率いるベトナム共産党(のちに労働党)に敗れてベトナムから撤退したことに淵源がある。 

 フランス敗北後、1954年7月にジュネーブ協定が調印されてベトナムは北緯17度線で南北に分断され、以北をホー・チミンが指導する「ベトナム民主共和国」(以後、北ベトナムと表記)、以南が資本主義圏の「ベトナム共和国」(南ベトナム)として分離独立した。

 フランスの完全撤退後、南ベトナムは政情が不安定で、農村部に共産ゲリラ(ベトナム民族解放戦線=ベトコン)が浸透する。1961年、米国大統領ケネディは、南ベトナムに軍事顧問団を派遣して南ベトナム政府軍を支援し南地域での農村立て直しに着手する。



 噛み合わない南北の大義

 ケネディ政権がベトナム問題に深く関与するようになったのは、冷戦激化による共産圏拡大への危機感からだった。このままでは南ベトナムは北ベトナムによって赤化統一され、アジアの隣国が次々とドミノ倒しのように共産化してしまうという恐れだった。いわゆるドミノ理論だ。自由主義(資本主義)体制の防御というのが、米国介入の大義だった。 

 対するホー・チミンは、腐敗した南の政権に苦しめられる南ベトナムの人民を支援して、ベトナム民族の統一国家を樹立するという大義を掲げた。南部の農村に北ベトナム軍の支援で政治ゲリラを浸透させて、農民の教化に主眼を置いた。拠点都市、集落をネットワークとして繋ぎ、南ベトナム政府の影響力を排除する戦略を立てる。

 戦争とは大義と大義の衝突なのだが、浸透する政治部隊の南北格差が大きすぎた。同じ農村に南ベトナム政府の官吏が入っても、食料を強奪したり、共産シンパの疑いをかけると家を焼き払ったりを繰り返した。政府官吏、政府軍の腐敗に絶望した米国は、次第に軍事重視の姿勢となり、実戦部隊を派兵するようになり、その兵士の数も次第に増えていった。軍事力で各都市、農村を平定し、ベトコン分子を摘発することに重点が置かれるようになる。

 南ベトナムの大半の農民にしてみれば、共産主義も自由主義もない。日々平和で耕作が保障されれば、それでいいのだが、米軍と南ベトナム政府軍が展開する強引な索敵・掃討作戦は、米軍への強い憎悪を生み、あえて敵の数を増やしていく。


 通じない米軍の3M戦略

 戦場は、中部の山岳地帯と、それに連なるジャングル、そして点在する集落周辺も、沼地のような泥田で、戦車や車両の機動力も自由に使えない。こんな非正規の戦闘向けに米軍は組織されてこなかった。対する地理に精通したベトコンと彼らの情報ネットワークに手引きされた北ベトナム軍は、自ら狙った地域に自由に出没しては待ち伏せして米軍部隊を襲撃し、ジャングルに張り巡らされた地下トンネルを使って姿を消す。

 第一次大戦、第二次大戦、同じく冷戦が火を噴いた朝鮮戦争でも、米軍が経験してきたのは、平原あるいは海洋で両軍が激突する正規(正面)戦闘だった。そこで勝敗を決したのは、兵士、艦艇、航空機、重火器の数だった。いずれの戦いでも物量に勝る米軍は勝ち続けた。米軍が疑わなかったのは、兵員(MEN)、資金(MONEY)、物資(MATERIAL)の「三つのM」で上回れば決して負けないという3M信仰だった。

 しかし、敵のあぶり出しのためにジャングルに枯葉剤を撒き散らし、ナパーム弾で焼き払い、焦土となった農村に民生資金と食糧をいくら注ぎ込んでも、戦況は好転しない。当初、1、2年で南ベトナムは安定するという見込みははずれ、米軍兵士は、ジャングルの中でヒルにまとわりつかれながら終わりの見えない非対称の戦いの中で、教え込まれてきた「自由防衛のために」という大義を見失っていく。(この項、次回に続く)


(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考資料
 『ベトナム戦争 誤算と誤解の戦場』松岡完著 中公新書
 『戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』野中郁次郎ら共著 日経ビジネス人文庫

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