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国のかたち、組織のかたち(102)技術革新と経営(フラッシュメモリー開発 中)

指導者たる者かくあるべし

 孤軍奮闘

 半導体を使った小型軽量の記憶媒体であるフラッシュメモリーの開発に成功した升岡富士雄のチームだったが、東芝社内でその技術が持つ重大さはなかなか理解されなかった。さらに消費電力の低減化を目指しての改良には研究費が出ない。記憶媒体よりもコンピュータの計算機能に利用されるDRAMの開発・生産に賭けていた東芝の経営陣からは、見向きもされなかった。
 そこで升岡は一計を案じる。当時デジカメの将来性に着目していた家電開発研究所に出向き、「さらに高性能のフラッシュメモリーができれば、デジカメはもっと小型化、軽量化できる」と持ちかけた。同研究所は升岡の提案を理解し、1千万円の研究費を出してくれた。ようやく研究は継続される。
 こうして升岡が開発したNAND型と呼ばれる新型フラッシュメモリーを搭載したデジカメが誕生した。意外だろうが、最初のフラッシュメモリー利用のデジカメを発売したのは東芝だった。しかし、カメラメーカー、フィルムメーカーにデザイン、カメラ機能の面で太刀打ちできず、カメラ事業は失敗した。
 それから30数年、今ではフラッシュメモリーはさらに小型軽量化し、スマートフォンに、高性能なカメラ機能が収まり、必須のアイテムとなっている。

 サムスンの慧眼

 升岡は、フラッシュメモリー生産事業をなんとか軌道に乗せたのをしおに、1994年、東芝を去り、東北大学に研究拠点を移すことになる。
 そのころ、升岡の研究に注目する企業が現れた、韓国の電子産業をリードするサムスン電子である。インテルに続いてまたしても海外の経営者だ。
 1992年、フラッシュメモリーの将来性に目をつけたサムスンは、東芝とフラッシュメモリーの共同開発を提案し、東芝はその特許技術を売り渡した。そのサムスンが現在、世界のフラッシュメモリー生産の圧倒的トップシェアを占めている。
 筆者は1995年、新聞社のソウル特派員として赴任した。当時、躍進を続ける韓国経済に関心を持った私は、サムスン社員たちとも親しくなった。日韓経済の研究会と称して定期的に飲み会も開いた。
 ある夜の酒席で、親しくなった電子技術開発部門の李君がこんなことを話したのを、今でも鮮明に覚えている。
 「韓国の先端技術開発レベルは日本に比べるとまだまだだ。けれど李健煕会長(イ・ゴンヒ=サムスングループ創業家オーナー)は常々こう指示されるんです。足りない技術は、日本企業からでも、米国からでも持ってきて真似ればいい。真似るからには完璧以上に真似ろ。そして世界トップを目指せ、と」

 問われる経営判断

 李くんから聞いたサムスントップの指示には続きがある。
 「諸君に求めるのは、その技術がどのような意味を持ち、将来どれだけ発展的に生かされていくかの判断だ。その有用性を私に説得するなら、私たち経営陣は、重要だと考えれば必要な経営資源を必要なだけつぎ込む。それが責任ある経営者の判断だ」
 1990年代半ばの話だ。当時の日本企業は、世界に冠たる技術力を誇り、韓国については、ようやく先進国の入り口に差し掛かったばかりで、恐れるに足らずと見下していた。
 たしかに、韓国企業の技術開発研究費は少なく、海外の特許を導入して真似ごと生産が続いていた。しかし、独裁的な財閥オーナーのトップダウンの経営判断は速かった。そして90年代終盤に登場した金大中(キム・デジュン)政権は、企業の技術開発投資を増やす政策を推進し、半導体分野のみならず日本企業に追いつき、追い越して行くのである。
 升岡は振り返っている。「当時の東芝にはフラッシュメモリーが将来どうなるかとわかっている人がいなかったけど、サムスンにはいたということでしょうね。サムスンに技術を売らなければ、東芝は先にマーケットを独占できたかもしれない」(この項、次回に続く)
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考資料
 『躍進フラッシュメモリ 半導体ファイルの先兵』升岡富士雄著 工業調査会Kブックス
 『残念な東芝で「フラッシュメモリーの父」は活かされなかった』週刊ダイヤモンド編集部

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