menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

サービス

53軒目 「外食産業と流通のハイブリッドの手本」

大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

わい家 大阪1号店 (旧店名「ワイヤ」)
shikumi53_01.jpg 戦後の高度成長期の流通の使命は、多くの人に安くておいしいものを安定的に供給することだったことは間違いない。しかし、需要<供給となると、売り手の努力はもはやありがたくなく、消費者は安くて、手軽で、食べなれていて、都合のよいものを求めるように変貌する。おまけに、売り手が効率を追求し、POSレジの普及で売れ筋のコントロールをするようになると、売れるものと売れないものが明確になり、高騰するものと見向きもされず朽ちていくものに二極化する。こと水産業は収量をコントロールできないから、売れなければ食品を廃棄することになる。おまけに乱獲で売れる魚も獲れず、水産資源の枯渇を招いている。
 
 売れるものをずっと売ってきたが、売れなくなって苦境にたつ水産業界に一石を投じる店が大阪にある。
 そして、その店は、確実に店舗網を広げようとしている。今回は、その期待の星、ワイヤを紹介しよう。
 
shikumi53_02.jpg 300円均一の居酒屋や浜焼きと言うと、私はどうしても「安かろう」的な先入観がよぎる。
 数年前、鳥貴族を知ったときは何かを感じた。しかし、その鳥貴族の急成長によって、大手チェーンは安易に均一パッケージ展開に走った。それがこのようなイメージを作った。
 一方、浜焼きはブームになり、素人向けにすすめられるFCパッケージとなった。このブームで生まれた店が、私に安くない価格であまりいいものでないものを売っているイメージを持たせてしまった。
 かような理由で、初めて店を訪れるとき、ワイヤがなぜそこまで伸びているかわからなかった。
 
 しかし、実際にワイヤを訪れると、衝撃と感銘が走った。これは久々に感じた手ごたえだ。なぜ、そこまで衝撃と感銘を受けたのかとか言うと、店づくりの背景には、しっかりとした理念があったからに他ならない。
 ここで、ワイヤグループを展開するブルーコーポレーションの長谷川泰三社長を紹介しよう。長谷川社長は、サーフィンをするために、とある漁村にいたときに、現金を稼ぐために漁師をしていた。そして、大阪に戻り飲食店を始めようと思い、浜焼きの業態をスタートした。
 若かったせいもあってか、市場の業者がまっとうに相手にしてくれなかった。やむなく、漁師をやっていた経験から、浜まで行けばなんとかなるだろうと紀伊長島に向かった。
 営業が終わってから毎日3時間半くらいかけて紀伊長島まで一年くらい仕入れに行ったというから驚きだ。
 
 「料理の技術が無かったため自然に300円という価格になった」と長谷川社長は振り返る。顧客視点でお客様を魅了する方法を見出してきたのだ。
 その考えとはやり方はどっぶりこの業界に浸かった人間には考えもつかない“究極の素人経営”だ。今は急展開しているゆえ、粗削りでありますが、必ず、来そうな店がこのワイヤなのだ。
 
ワイヤの理念
 「間違った形で高級魚になっていく国産の魚介類を身近に」という理念に基づいて国産の魚を300円というリーズナブルな価格で提供している。そのために、長谷川社長は全国の漁港を巡り、仕入れルートの開発につとめている。
 POSレジの普及で、データに基づき仕入れをするのが当たり前になり、買い続けて、売り方を究めようという店は少なくなっている。また、食べる量が減るのなら、少しでも高く売ろうとするゆえ、おかしな形でのブランド化を国や漁協がしようとしている面がある。
 そもそも、水産業者が厳しいのは水産資源の枯渇と魚離れだ。身近に、おいしく食べていただくことで、安定して買い続けられる。魚の食べ方を提案しおいしさを知っていただくことで、魚離れを回避し、あまり食べない魚を食べていただくことで、漁師さんの収入が安定するようにする。こんなことが求められている。
 その落とし込みがしっかりワイヤにはある。

shikumi53_03.jpg
 
shikumi53_04.jpg まずは、ホタテの浜焼き、国産大あさりの浜焼きでスタートするのがいい。殻つきホタテは二個で、大あさりは三個で300円。商品を見て、驚くだろう。そして、刺身各種、寿司ももちろん300円だ。
 この店の一番の見せ場はハマグリのつかみ取りだ。最低保障個数があり、やはり300円。
 
 まるで流通のような感覚の価格ややりかただ。天ぷらも、海鮮丼や太刀魚の天丼のようなご飯ものも驚くような量ですが300円。
 長谷川社長はプライシングするときに「自分が300円払ってお値打ち感があるかどうかで判断する」と言う。
 
shikumi53_05.jpg 実はワイヤは冷静に見ると、リテール×レストランのハイブリッド型の要素がある。背景に理念があり、その理念に基づいて仕入れたものを、流通のように売る居酒屋だと言えよう。この店には、今までのレストランと違う何かがある。
 みなさんも、ぜひ、注目していただければと思う。
 
わい家 (旧店名「ワイヤ」)
(→食べログ内ページ・わい家 大阪1号店)
大阪府大阪市北区堂山町5-9 扇会館 2F
電話 06-6312-7722

 

52軒目 「今、話題の『俺のイタリアン』」前のページ

54軒目 「食べログ最高得点の寿司屋にどうしたらなれるのか?」次のページ

関連記事

  1. 57軒目 「宣伝を使わず小商圏で生きる道」

  2. 147軒目 「《これまで回ったベスト3に入るそば》手碾き蕎麦 Z庵 @茨城県結城市」

  3. 36軒目 「地裏で看板がないのに100席を満席にする店」

最新の経営コラム

  1. 第36講 カスタマーハランスメント対策の実務策㉓

  2. 第132回 弛まず進める製造装置の改良で競争力向上はエンドレス(やまみ)

  3. 第181回 コミュニケーション上手になる仕事の進め方104『相手に好かれる聴き上手のスキル』

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 経済・株式・資産

    第115話 税金を滞納するとどうなるのか?(5)
  2. 人間学・古典

    第19人目 「伊藤博文」
  3. 戦略・戦術

    第六十九話 内勤者の視点から生まれた成功事例~営業マンのいない町工場の業績アップ...
  4. ブランド

    「先端」を制する者、成功を制す その6「毛先」
  5. 教養

    2015年1月号
keyboard_arrow_up