外食産業も例外ではない、選択肢がいっぱいある中、自分の生活習慣に見合わない店に行く必要などない。なぜならば、食のマーケットにおいても大衆化のコンセプトに必要な要素“削る”ということを戦略的に行う、異業種からの参入があるからだ。
今日は、今、勢いがあり、既存の冴えない飲食業界に一石を投じる「俺のイタリアン GINZA」を紹介しよう。
考えてみればシェ・マツオの経営破たんに見るように、人口増加に支えられ、右肩上がり、総中流というなつかしき良き時代に人気があった店の没落はものすごい勢いで進んでいる。今の時代は星付きレストランで修業したくらいでは、店の成功は厳しい。場合によっては、就職すら難しい。野球で言えばイチロー、サッカーで言えばホンダのような感動的なレベルの料理人でなければ、料理人としてやっていくのは困難になった。
そして、食べログの普及により、シビアに勝手に評価されてしまう。グランメゾンを維持するには、店づくりや広告宣伝に長けたディレクターがいなければ繁盛しない。
話は戻ろう。「俺のイタリアン GINZA」店内は、ワインレッドを基調にしたちょっとリッチな雰囲気だ。中央は立ち飲みスタイルで、奥にボックス席がある。
この店の経営の味噌は少ない座れるスペースだ。この少ない座れる席の予約を取る。当然、話題を仕込めば、予約で常に埋まる。この流れが、予約の取れないレストランと言う事実を作る。今、流行のやりかた。考えてみれば、アメリカの人気ハンバーガーチェーン「IN&OUTバーガー」も必要以上の客席は作らない。お客様のニーズが発生する時間は同じだからである。だから、盛況感がある。
客席数(キャパ)は利便性の武器になる。しかし、目的来店には、仇となる。
以前なら、この手の店は予約を取らなかったが、敢えて、椅子席を取ることで、予約の取れないレストランを演出するのだ。うまい!
問題は、小さな店はキャパが無い分、売上が上がらない。そこで、回転するスペースを作る。これが立ち飲みだ。
私が、まず、注文したのはピッツァのマルゲリータ。これで580円は確かに「やっすー」と感じる。「価格はすべてを解決する」と私のクライアントのディスカウント惣菜のオーナーの遠藤恭二氏はよく言ったが、まさにこれ。圧倒的な安さと価値を感じさせるなら、この手の店にあまり行けないターゲット層のスケールになる商品を作らないといけない。これが、このピザの役割。これから、三大珍味を使った看板メニューの価値があると思ってもらう。普段食べていない人にとって、高級食材では憧れではあるが、「安いのか高いのか」わからない。つまり、判断基準すなわち尺度がない。
「トリュフのフリッタータ」もボリューム満点。こちらは、「Oh!ポイント」直撃。
人間は動物だ。したがって、食事には動物として餌を喰らう面、すなわち、満腹中枢を満たす要素を基調にして、誰もが食事をする。ただ、育った環境や、後天的な知識などで、食事のしかたが文化的ないし理性的になる。
満腹中枢への刺激は、胃袋を一気に満たすこと、ナトリウムを血液に流し込み血圧上昇させること、糖分を血液に流し込み血糖値を上げること、そして咀嚼、食事時間で実現される。前者三つを私は餌性と言う。
便利な世の中だ。忙しいバリバリのビジネスマンはランチなどの食事時間が短いため、この餌性を基調とした食習慣が無意識に身についてしまう。
それゆえ、おいしさを、この餌性を満たす要素で感じてしまう。
この餌性主体の食事をしている客層に言わば味は関係ない。それよりは、いつも食べている日常の食事をわかりやすい要素で示す必要がある。その入口となるのが、「グルメ食材」「マスコミ情報」「見た目のインパクト」という化粧だ。
「ほんものの食材の味の違い」は食べ比べないとわかないし、「生産者のこだわり」「食材の希少性」は価格差があると、これまで育った環境、連れ合いなどの人間関係から教育を受け、多様な価値観がないと評価のしようもない。食は文化であり、文化は多様な価値観と食習慣になる。
しかし、多くの店は、知りすぎたことを忘れて、「わかってもらいたい」という視点で失敗します。多くの人にとっては「柔らかい」食材が高級で、贅沢にソースやタレで食べることを期待している。かつて著書に「貧乏人にタレを売れ」と論じたことに、食文化を崩壊させるとお叱りをいただいたが、食育も、この一歩目からスタートしないと成功しない。
グランメゾンに行くには時間とお金が必要だ。したがって、限られた人間がいくことになる。多くの庶民は記念日やハレの日に、年に一回、あるは一生に一回いくくらいで、習慣化はできない。この手の店はお客様と長いつきあい、多様な価値観を提示して長い時間をかけて育ていくことに価値がある。したがって、このマーケットは現状、かなり小さい。
ビジネスマンやグランメゾンに行きつけない人間には、グランメゾンの雰囲気に違和感があるだろう。食は生活習慣なので行きなれなければ、居心地が悪いのはあたりまえだ。雰囲気のよいワインバーのようにして、気軽に飲み食いできるようにすれは敷居が下がる。立ち飲みにすれば、なお下がる。
最近の大繁盛飲食店はF(食材)+L(人件費)コスト至上主義を脱皮した。F+L+L(初期条件)の合算で考えるようになったのだ。つまり、つまり初期条件に注目して、こちらのウエィトを下げる。例えば、立ち飲みにして、坪効率を上げて比率を下げるのは代表的なやりかただ。その下がった固定費の部分を例えば、フードコストに回す。
F+Lの比率を上げ、例えば、料理のコストパフォーマンスを基軸に置くなら、広告商品に原価をかけ見た目のコスパをあげる。もちろん、開かずの椅子席で盛況感を出し、立ち飲みに誘導し、立ち席の回転で坪効率を上げる。さらに、予約不能になることにより、前後の時間に自然誘導するのがこの坪効率がさらにあがる。
フレンチ、イタリアンの業界で、今までにない経営手法で、イタリアン業界の「すしざんまい+魚がし日本一」と言えるでしょう。上場を目指しているとのことだが、それだけの市場性があるかは微妙だが、都心部にはマーケットがあるだろう。ただ、同業態を近郊に出せば、都心の店の鮮度が落ちる。ダイヤモンドダイニングのように少ないロットで中心地に店を出すのも手だが、月商1000万円~1500万円が繁盛店では、とんかつのテイクアウトよりも旨味がない。投資家の評判がよい、鮮度がよい時に売上の成長曲線を急速に見せて、早目に上場するしかないように思うのだが・・いずれにせよ、面白い。