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人間学・古典

第6回 富の本当の活かし方2 国を富ます

経営に活かす“十八史略”

ひとりの人間としては、前回、述べたように、

 

  ・お金を集めるのがうまく、しかも金離れもよい


人が好かれます。こういう人は金離れがよいのにますますお金が集まってくるということになるわけですが、国や企業のレベルになると、単に金離れがよいというだけではいけません。お金の存在が国などの信用のもとになっており、それがあるからこそ人々が安心して生活できたり、他国との国交が可能となったりするのですから、運用には計画性が必要となります。

 国や企業を富ますには、


  ・無駄遣いを徹底的に省き、必要な部分に投資する


ように注意しなければなりません。

  「十八史略」をひも解いてみましょう。

前漢王朝の文(ぶん)帝、景(けい)帝の御世は富を蓄積した時代でした。

秦の末期から漢の初期にかけては戦乱に明け暮れたため、人々は疲れ切っていました。

漢が興ってから、秦の時代に整備されたわずらわしい法令は簡略化され、官民ともども休息し、太平の世を楽しみました。文帝は高祖以来の政策を継承し、民を休め、農村を活性化することに注力したのです。

文帝は身を謹んで、倹約に励みました。景帝の代になるまで560年の間、天下の風俗はすっかり変わり、人民の生活も安定して国家は無事。人々の心は充実し家は満ちたりており、都会も田舎も倉庫には穀物があふれていたといいます。

朝廷の財政は豊かになり、銭蔵(ぜにぐら)には金が有り余って都に集まる銭は幾億万を重ね、銭差(ぜにさ)し(硬貨の穴に通して使う、保管または運搬用の紐)が腐り、勘定もできぬほどでした。政府の米倉の穀物には、古々米、古米、新米とあとからあとから積み重ねられ、はては倉に入りきらなかったものは外に露天積みされました。ついには紅く腐って食べられなくなるほどだったのです。

官吏となる者は子や孫まで養育し、その職を子孫に代々世襲して、官職を自分の家の姓として名乗るようになりました。倉氏とか庫氏と称する者も現れます。

 人々は自重して、法を犯さないようになりました。しかし、そのため自然に法の網がゆるやかになり、人民には金ができたので、身分を越えた贅沢(ぜいたく)をして楽しむようになりました。貧乏人の土地を買い占めた富豪連中は、地方の政治を私物化する者もあり、皇族・諸侯・諸大臣以下、贅沢ぶりは際限がありませんでした。

 最近でいえば、戦後の高度経済成長に似ています。戦争で焼け野原となった日本。建築物が焼かれてなくなったのみでなく、戦争では多くの若者を失いました。そんな中、日本人は持ち前の勤勉さを発揮し、わずかな期間で欧米諸国に並ぶ先進国となり、経済大国と呼ばれるほどにまで成長したのです。国を富ますことに成功しました。

 では、前漢王朝のその後はどうなったでしょうか。

 すべて物事は頂点に達したときが下降のはじまりです。貯める天子が去った後に使う天子、武帝が即位しました。

 対外積極策をとって毎年のように戦争を行い、内政では土木工事を好んだため、国家財政は次第に逼迫していきます。そうして徴税は過酷になり、世の中はすっかり不景気となっていきました。

 こうなったのは武帝の欲望が原因ですが、余っている財を使ってもっと発展させようという考え方自体は間違いとはいえません。武帝の場合、「人民のために使う」という視点が欠落していたのが最大の問題だったのです。

 日本はバブル崩壊後、長期間にわたって経済が低迷しました。昨今は中国、北朝鮮などとの摩擦も大きく、きな臭さが漂っています。戦争に発展しなければよいのですが。

 企業においても、


  企業を富ますことを大前提に据えて財を調達、運用すること


が重要です。増えた財はムダ使いせず、効果的な投資を心がけること。漢の武帝の積極性は見習いつつ、中身はマネしないように気を付けましょう。

 
 
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