今後10年間、中国経済の2つの「7割確率」は要注意である。1つは2016年前後に住宅バブル崩壊の確率は7割以上であり、2つ目は2020年まで経済成長挫折の確率は7割以上である。いずれも中国の人口構造の大変化に起因する。
中国当局の発表によれば、2012年の経済成長率は7.8%となり、前年の9.3%より大幅に減速している。もちろん、7.8%成長は主要国の中で依然としてトップクラスの水準である。しかし、14年ぶりに8%を割るインパクトはやはり大きく、日本企業は、中国の「2桁成長の時代」はもう終わったという認識を持たなければならない。
一般的には、昨年中国の成長減速は欧州債務危機の影響を大きく受けた結果だと受け止められるが、実相は必ずしもそうではない。ユーロ危機よりもっと深刻な国内問題が発生しているからだ。それは2012年中国の15~64歳の生産年齢人口はピークを越え減少に転じたという人口構造の大変化である。中国では60歳定年制を実施しているため、15~59歳を「生産年齢人口」としているが、この年齢層の人口は昨年1年間で345万人も減少した。生産年齢人口はいわゆる「現役世代」であり、大幅の減少は景気を圧迫する重要な要素である。言い換えれば、現役世代の減少は昨年中国経済減速の隠れた「真犯人」である。
周知の通り、中国は1980年代初から「一人子政策」を実施してきた。その結果、15歳以下の年少人口が総人口に占める割合は1982年の33.6%から2012年の16.5%へと半減した。反対に、65歳以上の高齢者人口は4.9%から9.4%へと倍増している。15~64歳の生産年齢人口は2011年に10億人を突破し、ピークに達した。総人口に占める割合は74.4%にのぼる。ところが、12年からはこの年齢層の人口は減少に転じ、そのうち、15~59歳の人口は1年間で345万人も減少した(
図1と図2を参照)。
今後、生産年齢人口減少の傾向は加速し、長期化する。たとえ「一人子政策」を廃止しても、15年以内に生産年齢人口は増えない。これまで中国は人口ボーナスを享受し、高度成長の道を歩んできた。しかし、生産年齢人口の減少によって、人口ボーナスは消えてしまう。そのマイナス・インパクトが大きく、今後、さまざまな分野で色濃く出てくるに違いない。
まずは住宅バブルの崩壊である。過去10年間、中国の住宅価格は全国平均で2.5倍急騰し、北京、上海、広州、深?など沿海都市では3~4倍暴騰した。住宅バブルの形成は生産年齢人口、すなわち現役世代の増加というニーズを前提にしたものである。日本が嘗て経験したように、現役世代の大幅な減少は結果的に不動産バブルの崩壊を招きかねない。筆者は2016年前後、中国住宅バブル崩壊の確率は7割以上と予測している。
さらに住宅バブルの崩壊は地方債務危機など金融不安に繋がりかねない。近年、中国の各地方政府は不動産ブームに乗じて大量の地方債を発行し都市開発を行ってきた。2010年、地方債総額は10兆元(約130兆円)超となり、GDPに占める割合は25%にのぼる。住宅バブルが崩壊すれば、地方債は不良債権化し、地方政府は債務危機に陥り、金融不安が広がりかねない。さらに、生産年齢人口の減少によって、労働力の不足、生産コストの上昇、国際競争力の低下など負の連鎖反応が起きやすい。経済成長の挫折というシナリオは現実味を帯びてくる。2020年まで経済成長挫折の確率は7割以上と筆者は予測している。
要するに、日本企業はこの2つの「7割確率」を念頭に入れ、対中ビジネス戦略を展開しなければならない。