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第120回 雲仙温泉(長崎県) 「乳白色の源泉」と「湯の中談義」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■共同浴場の入浴前に必ずしていること

「こんにちはー」。地元の人が普段使いの湯として利用している小さな共同浴場に入浴するとき、必ず先客にあいさつするようにしている。なぜなら、地元の人にとって共同浴場は、自分の家のお風呂同然だからだ。管理運営するための組合費を支払ったり、当番制でそうじを担当したりしている人も少なくない。

 そんな空間に見ず知らずの観光客が入ってきて、入浴マナーを守らずに傍若無人な振る舞いをしたら、どう思うだろうか。自分の家の風呂に知らない人が断りもなく入ってきたときのことを想像すれば、どれだけ不快かわかるだろう。
 
 あいさつをするのは、最低限のマナーだと思っている。たかが、あいさつ。されど、あいさつ。「見知らぬ顔だな」と警戒している地元の常連さんとも、あいさつをきっかけに世間話に花が咲くことも多い。地元の人と湯の中談義ができるのも共同浴場の魅力のひとつだ。

■天候や季節によって色が変わる

 長崎県・島原半島にある雲仙温泉にも共同浴場が健在だ。雲仙岳は今も活発な火山活動をしており、30を超える地獄のいたるところから湯煙がもくもくと立ち上っている。火山の近くには、かなりの確率で温泉が湧いているが、雲仙岳の山麓にある雲仙温泉もまた火山の恵みである。

 温泉街は標高700mに位置し、平地と比べて約5度気温が低いため、明治・大正時代は外国人の避暑地として栄えた歴史がある。当時は上海・長崎間の航路が開けており、上海租界(外国人居留地)の欧米人などでにぎわったという。

 外国人の避暑地だった名残だろうか、温泉街には西洋風のリゾートホテルが立ち並ぶ。しかし、ちょっと奥まったところに素朴な共同浴場が残っているのがうれしい。

 「湯の里温泉共同浴場」は、基本的には組合員専用の入浴施設だが、200円で一般客にも開放してくれている。小判型の湯船がひとつあるだけで、新しさや華やかさはないが、清掃や管理が行き届き、凜とした雰囲気をもった浴室である。

 源泉は地獄から引湯したもの。乳白色に濁った湯は酸性で、パンチがきいている。番台の男性いわく「今日は濁りが濃いほうだ」とのこと。天候や季節などによって日々、源泉の状態が異なるそうで、無色透明の日もあれば、緑色や乳白色に濁る日もあるとのこと。温泉が天地の恵みであることを改めて実感する。

 先客がいたので、いつものようにあいさつをする。「山登りの帰りによく立ち寄る」というおじいさんは、「浴室は素朴でも、湯は最高」と満足顔で話してくれた。

■目の覚めるような乳白色

 雲仙温泉を訪ねたら、温泉街から1キロほど離れたところにある雲仙小地獄温泉まで足を延ばしたい。ここは江戸時代に開かれ、吉田松陰も湯治に訪れたという。観光地化された雲仙温泉街とは打って変わって、周囲は鄙びた温泉情緒が今もなお残っている。「小地獄温泉館」は、1919年からある共同浴場だ。

 内湯には、ミルク色をした目にも鮮やかな白濁の硫黄泉がかけ流しにされており、焦げたような源泉の匂いが浴室に充満している。建物の裏手に湧く泉源までは、わずか4~5mの距離なので鮮度も抜群。九州では、これほど目の覚めるような白色の濁り湯は珍しい。

 香りや色は個性的だが、入浴してみるとまろやかな印象である。それでも体の芯からぽかぽかと温まる湯で、10分も浸かっているとたちまち汗だくになる。

 ここでもまた、地元のおじいさんと湯の中談義。週に1度通っているという常連さんだ。「この温泉のいいところは……」。どこの温泉地でもよくあることだが、地元の人の温泉自慢がはじまるとなかなか止まらない。

 汗だくになりながら自分が愛する温泉の魅力を語る。そんな姿は、なんだかステキだ。だから、共同浴場めぐりはやめられない。

 

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