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<事例―29 聖護院八ッ橋総本店(B2C)>創業元禄2年(1689年)、320年以上続く老舗として京都を代表する和菓子を供する・・・それが「聖護院八ッ橋総本店」だ

酒井光雄 成功事例に学ぶ繁栄企業のブランド戦略

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 ●老舗と呼ぶに相応しい企業が存在する京都
 
 794年(延暦13年)に桓武天皇は長岡京を離れて平安京に遷都し、平安京とその後身となる京都は、千年以上に渡り日本の首都機能を果たしてきた。長きに渡って都であったことから、京都はその歴史と共に研ぎ澄まされた文化と産業が生れた。
 
 一方、江戸(現在の東京)は平安時代に歴史に登場し、室町時代に上杉の支配となり、上杉の重臣太田道灌が千代田城を築き城下町として発達するものの、1486年道灌の死後には寂れた田舎に過ぎなかった。
 
 戦国時代に徳川家康が豊臣秀吉から関八州を拝領し、家康が荒れ果てた千代田城に入城。その後江戸城が新たに築城された。徳川幕府により300年続いた歴史はあるものの、京都と比べ、江戸(現在の東京)の歴史は浅い。
 
 こうした歴史的背景と共に、時代を超えて求められる存在として進化を続け、300年以上の歴史を誇る企業が京都には存在する。そのひとつが「聖護院八ッ橋総本店」だ。
 
 ●価格の安さ以外の「高付加価値づくり」
 
 1689年(元禄2年)江戸時代中期に※箏(こと)の名手であり作曲家でもあった八橋検校の墓参に訪れる人たちに向けて和菓子の「八ッ橋」をつくり、現在の本店の場所で販売を開始したのが聖護院八ッ橋総本店の始まりだ。
    ※琴という字を使うことがあるが、本来は箏と琴とは違う楽器。胴の上に柱(じ)を立てて演奏するのを箏、立てないのを琴という。古くは弦を張った楽器はすべて「こと」と呼んだ。
 
 同社の商品には、米粉と砂糖をあわせたものにニッキで香りづけをした焼菓子「聖護院八ッ橋」、焼かないものが「聖護院生八ッ橋」、つぶあんを生八ッ橋で包んだ「聖」、八ッ橋をうすく焼き上げた新食感の「カネール」などがある。
 
 同社が300年以上に渡り事業を継続できた理由、それは下記の企業理念から伺うことができる。
 
 『良い部分は変えず、時代にあわせる部分はあわせ、存続していく。これこそが本当の意味での文化の継続であると考えております。
  また、近年、会社によっては効率の良さや安さばかりを追い求めることもあるようです。ただ、それでは、会社として長続きしないのでは無いでしょうか。いち企業として、自社の利益を追求するのは当然ですが、企業が続くためには一社だけの利益ではなく、周囲からの支えが無くてはならないものです。
 
 (原文のまま 中略)
 
 続いていくということ。
 続いてきたということ。
 継続ということの本当の意味を常に忘れることなく、私たちはこれからも京都で八ッ橋を作り続けていきます』
 
 老舗企業は単に昔ながらの商品をつくるだけでなく、時代と呼吸し、守るべきは守り、時代に対応すべきは対応して来たことがわかる。
 
 次の100年をにらんで老舗の進化経営は続き、企業と商品のブランド価値も向上していく。
 
 <「聖護院八ッ橋総本店」の事例に学ぶこと>
 
 京都には「京都八ツ橋商工業組合」と呼ばれる組合があり、聖護院八ツ橋総本店以外にも八ツ橋を製造販売する企業が数多く存在する。例えば本家西尾八ッ橋「あんなま」、聖光堂八ツ橋總本舗「なまやつ」、株式会社美十「おたべ」、井筒八ッ橋本舗『餡入り八ツ橋「夕子」』などだ。
 
 こうした競合企業と競合商品が多数存在する中で、優位性を発揮するには、「個別ブランドの商標登録」「商品の意匠登録」「独自の販路づくりと販売方法の開発」「業界でのトップイメージを印象付ける物語性のアピールとネットを中心にした広報活動」が不可欠だ。
 
 モノ(商品)だけで優位性を発揮するのでなく、進化経営を実践する上で不可欠な11の領域それぞれに先手を打つことが、100年先にも求められる企業を実現する。
 
 
 
 
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