●国内の家具市場が縮小する中で日本に再参入したイケア
日本国内の家庭用家具市場は1991年(平成3年)までは成長を続けてきたが、バブル崩壊後は市場が急速に縮小。2012年の市場規模は6,650億円で、5年前の2008年と比較すると1,500億円以上も縮小した。
縮小する日本の家具市場に2006年参入し、成長を続ける企業がイケアだ。スウェーデンで誕生(登記上の本社はオランダに置き、非上場を貫く)した同社は、40以上の国と地域で店舗数は360を超え、2014年8月期の売上高は前期比3%増の292億9300万ユーロ(約4兆円)を誇る。
イケアは標準で3万~4万㎡という広大な店舗に家具を中心に、インテリア関連商品をおよそ1万点の品揃えを行う。国内では船橋(千葉)、港北(神奈川)、神戸(兵庫)、鶴浜(大阪)、新三郷(埼玉)、福岡新宮(福岡)、立川(東京)、仙台(宮城)の8店舗を展開する。ちなみに、イケアは1974年に参入し、2店舗の運営を開始したが1986年に撤退しており、日本へは再参入ということになる。
●イケア独自の経営戦略
イケアはデザイン性に優れた家具をリーズナブルな価格で提供して飛躍しているが、そこには同社独自の巧みな戦略が存在する。
(1)物流経費を抑える組立て式の家具にし、さらに物流効率を高められるように家具のデザインを行う
イケアは創業者のイングヴァル・カンプラード氏の徹底したコスト抑制の文化が根付いており、センスの良いデザインの家具を組立て式にして物流費を削減し、安価な価格を実現している。ここが安売りしか特徴のない在来型家具店との違いだ。
さらに同社が「フラットパック」と呼ぶダンボール箱に家具のパーツを梱包した際、無駄な空間ができないパーツの組合せになるようにデザインすることが決められている。そのためイケアのデザイナーは、デザインした家具がフラットパックになった時に、40フィートコンテナに何個積めるかを計算している。
フラットパックのサイズは、生産を委託している国の工場から世界の店舗に配送する国際物流に使われるパレットにもっとも効率よく積み上げられる形として考案されたものだ。(しかし大型のフラットパックは送料が高くなる弊害があるため、同社はネット販売で遅れを取ることになった)
(2)徹底したコストダウン対策
イケアは工場を持たないファブレス企業のため、他社の生産ラインを使って商品を仕入れ、商品コストの安い国を徹底して活用している。
しかも仕入れ先企業を絞り、1社あたりの購入量を増やしてほぼ100%イケア向けの商品を生産させることで、納入価格を下げる取組みを実践している。
加えて同社では商品コストを毎年2パーセントほど下げ続けることを経営目標に掲げ、徹底したコストダウンを実践している。
(3)コーディネートされたモデルルームによる商品陳列
イケアではテーマ別にモデルルームが用意され、そこに家具や雑貨を展示する。このディスプレーを生活者が見て、部屋全体をイメージしながら家具を選べるように工夫されている。
顧客は気に入った家具を見つけたら商品番号を控え、倉庫から商品をピックアップし、レジで精算する仕組みだ。
(4)個室に重点を置いた商品政策
従来の家具メーカーがリビングルーム用の家具に注力する中、イケアでは生活者の個室やベッドルームに注力して商品開発を行っている。
イケアにはおよそ1万点の商品が並んでいるが、入れ替わりも含め1年に1,500点の新製品が開発され投入されている。
<「イケア」の事例に学ぶこと>
イケヤは安売りメーカーではなく、徹底した効率化とコストダウン、そして組立て式による物流経費の削減で、リーズナブルな価格を実現している。
センスの良い家具を組立て式にして、誰にでも手が届く価格で商品を提供したことが、多くのファンを生み出し、さらにはイケア独自の強みになった。
また個室で最適な時間を過すことを前提に、個室空間に家具をコーディネートする発想でデザインがなされている。イケヤは単品の家具を売るのでなく、「快適な空間」で「時間を楽しむ」機能を提供する。
卓越したブランドは個別商品でなく、空間全体の世界観を売り物にする。「木」でなく「森」を見ているのが、イケヤのブランドづくりの源泉だ。