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経済・株式・資産

第136話 遠のく中国の背中 道険しい日本のデジタル戦略

中国経済の最新動向

 今年9月に発足した菅内閣は、デジタル担当大臣を任命した同時に、21年にデジタル庁を創設し、デジタル経済を「新しい成長戦略の柱」とする政府方針を表明した。米中に大幅に遅れを取る日本のデジタル経済にとっては朗報となる。

 

 しかし、志高くも道険しい。今後、日本のデジタル経済は遅れを挽回できるかが予断を許さない。

 

デジタル競争力 中国躍進、日本後退

 近年、日本のデジタル競争力は後退している。最先端を走る米国はおろか、中国の背中も遠のいている。

 

 10月1日、スイスの有力ビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)は2020年版「世界のデジタル競争力ランキング」を発表した。全63ヵ国・地域中、米国は3年連続で1位をキープ、2位シンガポール、3位デンマーク、4位スウェーデン、5位香港が続く。中国は18年30位、19年22位、20年16位へと、2年連続で躍進したのに対し、日本は18年22位、19年23位、20年27位へ大きく後退している。マレーシア(26位)にも抜かれてしまったのだ(表1)。

 

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 ランキングは、政府や企業が変革に向け、どれだけ積極的にデジタル技術を活用しているかを示したもので、①知識、②技術、③将来への備えなど3つの項目で評価している。

 

 日本はピックデータの活用や企業の機敏な対応が最下位に沈み、高度なスキルを持つ人材確保も弱い。シンガポール、韓国、中国などほかのアジア主要国に比べ差が拡大している。

 

◆デジタル通貨で世界に先行する中国

 中国は米国のドル覇権に対抗し、デジタル人民元の発行準備を加速させ、日米欧をリードしている。

 

 中国人民銀行(中銀)は2014年からデジタル通貨の研究を始め、今年4月に深圳、蘇州、成都、雄安新区4都市で先行実験を始めた。8月14日、中国商務省はデジタル人民元の実験地域を北京、上海、天津等全国28省・市に拡大させた。

 

 さらに、10月12日から、香港と隣接する深圳市は中国人民銀行と連携して、市民5万人を対象にデジタル人民元の大規模な実証実験を始めた。一般市民を対象とする実験は今回が初めてとなる。

 

 中国の新華社通信によれば、抽選で選ばれた市民はデジタル通貨用の財布アブリをスマートフォンに入れた上で、200元(約3200円)分のデジタル通貨を受け取る。5万人に総額1000万元(約1.6億円)が配布される。通貨は12日から約1週間、深圳市羅湖区内のスーパーや飲食店、ガソリンスタンドなど約3400店舗で使用できる。

 

 デジタル人民元を発行する中国人民銀行は、今回の実験ではデジタル通貨の財布間での受け渡しや銀行口座への入金などができないが、最終的には現金と同様のやり取りが可能だという見方を示している。中国政府は2022年の北京冬季オリンピックを視野にデジタル通貨の導入を目指している。

 

 一方、日銀は来年度の早い時期にデジタル通貨の実証実験を始めると発表したが、世界に先行する中国に追いつくのは容易ではないと思う。

 

◆ブロックチェーン特許出願 中国が日本圧倒

 デジタル通貨の基礎技術はブロックチェーンである。ブロックチェーンは分散型台帳のこと。ネット上の複数のコンピューターで取引の記録を共有し、互いに監視し合うデータ管理技術だ。過去のデータの書き換えは事実上不可能で、改ざんリスクが低い。「インターネット以来の発明」とされ、既にデジタル金融や物流など基盤インフラへの応用が進んでいる。

 

 中国企業が技術の囲い込みを強め、世界の主導権を握ろうと図っている。現在、ブロックチェーンに関する中国の特許は世界全体の6割を占め、米国と日本を圧倒している(図1を参照)。

 

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出所)アスタミューゼ。日経朝刊2019年11月21日記事により作成。

 

 企業ベースでは、首位のアリババは2019年8月までの累計出願件数は512件にのぼり、2位英NCHAIN社(468件)、3位米IBM(248件)に比べ、圧倒的な強みを示している(次頁図2を参照)。ブロックチェーン技術分野において、アリババに対抗できる日本企業が現時点では見当たらない。

 

デジタル産業と有力企業の育成に中国の壁

 デジタル競争力を向上させるためには、デジタル産業と有力企業の育成が不可欠だ。そこにも中国の大きな壁が存在する。

 

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出所)日本技術貿易。日経朝刊2019年11月21日記事により作成。

 

 ドイツの有力調査会社Statistaによれば、2019年世界各国のデジタル産業規模は、中国が25兆ドルで1位、米国19兆ドルで2位。日本は5兆ドル以下で、中国との大きな差が歴然だ。

 

 また、国連貿易開発会議(UNCTAD)「2019年デジタル経済報告書」によれば、米中2大国はブロックチェーン技術特許の75%、クラウド市場の75%、大手デジタル企業70社の時価総額の90%以上を占める。

 

 IT企業の時価総額を例にすれば、今年10月9日終値ベースで、世界企業時価総額ランキング上位10社には、米企業5社(GAFAとマイクロソフト)、中国2社(アリババ、テンセント)がランクイン。日本企業はゼロ(2を参照)。上位50社にも日本IT企業の姿がない。

 

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出所) 米Bioomberg Marketsにより作成。

 

 アリババの時価総額は8,109億ドル(約85兆6634億円)で、ソフトバンクグループ、NTTドコモ、ソニー、NTT、任天堂、KDDIなど日本IT企業上位9社の合計(85兆2509億円)を上回る(3を参照)。

 

 アリババはネット通販、スマホ決済、クラウド、ピックデータ、ブロックチェーン技術など先端技術分野において、いずれも世界の先頭を走り、日本企業を圧倒している。

 

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出所) YAHOOファイナンスにより作成。


 日本企業は遅れを挽回し、デジタル競争力をアップさせるには、米GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や中国BATH(百度、アリババ、テンセント、ファーウェイ)のような有力先端企業を育成しなければならない。しかし、これは容易ではない。日本のデジタル戦略実現への道が険しい。 (了)

 

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