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第137話 ポストトランプ時代の米中関係

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 アメリカ大統領選挙は民主党のバイテン前副大統領が当選確実の状態となっている。各国首脳が次々とバイテン氏を祝福するなか、中国外務省報道官が13日の記者会見で、バイテン氏に祝意を表明したものの、国家主席の習近平氏は未だに祝福を伝えていない。それは一体なぜだろうか?次期アメリカ大統領は「庚子(こうし)年の呪縛」を逃れ、任期を全うすることが出来るのか?バイテン大統領が誕生する場合、新政権の下で、米中関係はどう変わるか?本稿は独自の視角から分析を進める。

 

◆次期米大統領は「庚子年の呪縛」を逃れるか?

 筆者は米大統領選で当選を確実にしたバイテン氏を祝福すると同時に、次期米大統領は「庚子(こうし)年の呪縛」を逃れ、任期を全うすることが出来るかという問題を提起する。

 

 今年は2020年で、旧暦では庚子(こうし)の年に当たる。旧暦は60年でワン・サイクルなので、人間は60歳になると還暦を迎える。

 

 アメリカは建国後、4回の庚子年を経験した。1840年、1900年、1960年、そして今年2020年。いずれも大統領選挙の年である。

 

 筆者が調べたところ、これまで旧暦・庚子の年に選出された大統領は、例外なく在任中に不測事態に遭遇し亡くなったのだ。例えば、前回の庚子年は1960年、この年の大統領選挙に勝ったのは民主党候補のジョン・ケネディ氏。彼は3年後の1963年11月22日に暗殺された。この暗殺は今でも謎が残る。

 

 前々回の庚子年は1900年。この年の大統領選挙に勝利したのは、共和党候補のウィリアム・マッキンリー氏。翌年9月に無政府主義者に暗殺された。さらに前の庚子年は1840年、この年の大統領選挙の勝者はウィリアム・ヘンリー・ハリソン氏。彼は1841年3月4日に大統領に就任し、1ヶ月後、インフルエンザで亡くなったのである。ハリソン氏は在任中に死亡した初めてのアメリカ大統領だ。

 

 なぜ庚子年に選出された大統領は在任中、例外なく不測事態に遭遇し亡くなったのか?これはあくまでも経験則であり、科学的には説明できない。筆者はこれを「庚子年の呪縛」と名付ける。次期米国大統領は「庚子年の呪縛」を逃れ、任期を全うすることができるのか?世界は見守っていく。

 

◆なぜ習近平は未だにバイテン氏に祝意を伝えないのか?

 米大統領選で当選を確実にしたバイテン氏に、日本の菅首相をはじめ各国首脳が次々と祝福するなか、中国の習近平国家主席は未だに祝意を伝えていない。それは一体なぜだろうか?

 

 中国から見れば、バイテン氏は大統領選で当選確実の状態にあるが、トランプ大統領が負けを認めず異例の抵抗を続けているため、まだ確定の段階に至ってない。中国はこのアメリカの政治紛争に巻き込まれたくない。

 

 中国の指導者は、アメリカ大統領選挙の結果が確定した段階で勝利した候補に祝福を送るのはこれまでの慣例だった。例えば、2004年のブッシュ氏、2008年と2012年のオバマ氏、2016年のトランプ氏に対し、当時の中国国家主席はいずれも当選者の勝利宣言直後に祝福を伝えた。大統領選挙のライバル候補が選挙の結果に異議を唱えず、敗北を認めたからだ。

 

 しかし、2000年の大統領選挙の当選候補に対する中国指導者の祝電はかなり遅かった。民主党候補のゴア氏は共和党候補息子ブッシュ氏の勝利を認めず、激しい法廷闘争が長引いたためだ。同年12月12日連邦最高裁の裁定まで36日間かかった。結果はブッシュ氏の勝利が認められた。裁定2日後の14日に、当時の中国国家主席江沢民はブッシュ氏に祝電を送った。

 

 大統領選挙はあくまでもアメリカの内政である。外国内政不干渉という原則を貫いてきた中国は、今回も選挙の結果が確定するまで、習近平氏がバイテン氏に祝電を送らないと見られる。

 

◆中国、トランプ氏の「最後の狂気」を警戒

 もう1つの理由は、中国はトランプ政権の「最後の狂気」を強く警戒しているからだ。

 

 トランプ氏が今回の大統領選挙で負けた最大の要因は、コロナ対応の失敗だと思う。もしコロナ禍がなければ、トランプ氏が再選を果たしたかも知れない。トランプ氏は自分の失策を絶対に認めず、中国に責任を転嫁し続けてきた。選挙期間中、トランプ政権は猛烈なチャイナバッシングを展開し、次々と中国制裁措置を発動した。「中国カード」で劣勢を挽回しようとしたが、その効果が今一で、トランプ氏の思惑が外れた。彼の怒りは想像できる。

 

 現在、アメリカ大統領選挙の結果はまだ確定されず、トランプ陣営は法廷闘争に持ち込もうとしている。選挙結果未確定のまま、習近平主席はバイテン氏に祝意を伝えれば、トランプ氏怒りのはけ口となりかねず、トランプ政権による狂気な中国攻撃を招くリスクがある。これは中国の国益を損なうことになる。

 

 来年1月20日新しい大統領が誕生するまで、台湾問題や南シナ海で米中軍事衝突の恐れがあり、米中関係は最も危険な時期を迎える可能性が高い。トランプ氏による「最後の狂気」に口実を与えないために、中国は慎重な対応を取らざるを得ない。

 

大統領が変わっても米中関係の基本構図は変わらない

 さらに、バイテン大統領が誕生したとしても、米中関係はすぐ改善する保証がない。大統領が変わっても米中関係の基本構図は変わらないからだ。

 

 急速に台頭する新興国中国。そして中国を脅威と見なす覇権国アメリカ。これは米中関係の基本構図であり、今の米中緊張関係の根源と言える。

 

 現在、アメリカでは、民主党であろうと、共和党であろうと、いずれも中国の台頭を最大の脅威と認識しており、国民のコンセンサスともなっている。バイテン次期大統領にとって、このコンセンサスを変える力もないし必要もない。

 

 一方、アメリカ政権が変わっても、中国台頭は止められない。

 

 歴代のアメリカ民主党政権は人権問題で中国に厳しい立場を取ってきた。バイテン氏は選挙期間中、中国の新疆ウィグル族問題に言及した際、習近平氏を「悪党」と批判した。バイテン政権発足後、香港問題、新疆ウィグル族問題、チベット問題、南シナ海問題、台湾問題などで、強硬姿勢の継続が予想される。

 

 ただし、強硬姿勢とは言えるものの、トランプ政権のような疾風豪雨式「チャイナバッシング」が考えにくい。むしろ、バイテン政権は日欧など同盟国と手を組んで、ゆっくりしながら着実に対中包囲網を構築していく可能性が高い。

 

総領事館の再開かがポストトランプ時代の米中関係の試金石

 バイテン政権の下で、米中関係はトランプ政権時代よりさらに悪化する余地が少ない。この意味では、米中関係は最悪期を抜け出すかも知れない。

 

 バイテン氏は穏健かつ紳士的な政治家だ。副大統領在任中、中国の習近平国家主席と7回も会談した実績がある。戦略分野において、バイテン氏は対中攻勢を緩めることがないが、実務分野では中国と協力することはあり得る。

 

 例えば、今年1月以降中断している米中貿易交渉の再開や経済・安全保障分野の米中対話、気候変動問題及びコロナ抑制に関する協力など、米中は歩み寄る可能性が高い。

 

 ポストトランプ時代の米中関係を占う試金石は、今年7月に閉鎖されたヒューストン中国総領事館と成都アメリカ総領事館が再開するかどうかだと、筆者は見ている。

 

 前政権が残された課題が山積している中、バイテン政権1年目に、すぐ総領事館を再開することは確かに難しい。しかし、バイテン次期大統領は在任中にこの問題をいずれ解決するだろう、と筆者は見ている。(了)

 

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