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第142話 気候変動 中国はバイデン政権の約束を信用するか

中国経済の最新動向

気候危機は、世界にとって生存に関わる脅威である。二酸化炭素の二大排出国である米中は特に責任が大きく、どんな行動をとるかが世界に注目される。

 

日本時間4月18日、気候変動を担当する米バイデン政権のジョン・ケリー特使と中国の解振華・気候変動事務特使は、気候変動で「米中が互いに協力していく」とする共同声明を発表した。また、22日に習近平国家主席はバイデン大統領が主催する気候変動サミット(オンライン開催)に参加し、演説を行った。

 

中国は確かにバイデン政権のパリ協定復帰及び気候変動の対策に関する米中協力を歓迎している。しかし一方、アメリカが自らの約束を守れるかどうかに対する中国の不信感が根強い。なぜなら、過去25年間、アメリカは気候変動に関する国際条約に対し、参加→離脱→再び参加→再び離脱を繰り返し、各国が何度もアメリカに翻弄された辛い経験があるからだ。

 

◆気候変動に関する米中共同声明の主な内容

ケリー氏と解氏は15、16の両日、中国・上海で気候変動問題について会談。その後、気候変動危機対応に関する米中共同声明が発表された。ケリー氏はバイデン政権で中国を訪問する最初の政府高官となり、共同声明も同政権で初の米中協力に関する文書となる。

 

米中共同声明の主な内容は次の通り。

 

1)両国は気候変動危機に取り組むために互いに協力し、ほかの国とも連携する。

 

2)双方とも「22日から米国主催の気候変動サミットに期待している」。両国は「11月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向け、目標を高めるというサミットの目標を共有する」。

 

3)両国は、可能な限り国際融資を拡大し、発展途上国での再生可能エネルギーへの移行やCO2排出削減などを支援するなどでも協力していく。

 

4)米中は地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定の履行を支援するとともに、英グラスゴーで年内に開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の成功を促すため両国が協力する。自分

 

台湾問題、香港問題、新疆ウイグル族人権問題をめぐる米中対立が激化するなか、気候変動は数少ない米中協力分野の1つとなり、共同声明の発表が世界の注目を集めている。

 

◆気候変動に関する米中の新たな約束

 気候変動の対応をめぐり、米中はそれぞれ新たな二酸化炭素(CO2)削減目標を発表した。

 

 バイデン大統領は4月22日に開幕したバーチャル気候変動サミットで、アメリカが2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を2005年比で50〜52%削減すると約束。これまで、2025年までに26~28%削減するとしてきた目標を、2倍近くに引き上げた。

 

 一方、中国政府は今年3月に開かれた「全人代」で、CO2排出量が30年までにピークアウト、60年までに実質ゼロの実現を目指すことを発表した。

 

 米中のほか、日本の菅義偉首相も、今回のサミットで従来の目標を大幅に引き上げ、温室効果ガス排出量を30年までに13年比で46%削減すると発表した。日米欧先進国はいずれも2050年にCO2排出実質ゼロを目標にしている

 

 残念ながら気候変動サミットで、各国から従来の数値を上回る目標は掲げられたが、いずれも実現達成の具体的な行程は示されていない。目標は本当に実現できるかどうかに疑問が残る。

 

◆払拭されない中国の対米不信感

 バイデン政権は中国を「今世紀最大の地政学上の課題」と位置づけ、「必要な時に競争し、可能な時に協力し、必須の時に対抗する」という対中方針を明確にしている。気候変動は米中が協力できる分野とされる。二酸化炭素の最大の排出国中国の協力を取り付けなければ、地球温暖化対策は成功しないからだ。

 

 一方、中国にとって、気候変動問題はバイデン政権と接触する数少ない窓口の1つだ。この分野は両国の利害が一致する分野であり、アメリカと連携する姿勢を見せ、緊張緩和の糸口を掴みたいのは中国の本音である。

 

 ただし、アメリカが本当に約束を守れるかについて、中国は根強い不信感を持っている。中国から見れば、アメリカは気候変動問題で国際条約破棄の常習犯であるからだ。

 

 例えば、1997年12月11日に採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」は、アメリカのクリントン政権が署名し、EU諸国、ロシア、日本、中国などと一緒に国際条約の締約国となった。ところが、2001年に共和党のブッシュ政権が誕生すると、直ちに京都議定書離脱を宣言した。

 

パリ協定は、2015年11月30日から12月13日までにパリ郊外で開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」にて採択された国際条約だ。米中及び日本・EU諸国が一丸となって、気候変動に関する国際的な目標・取り組みを定めていた。翌年の2016年、米民主党のオバマ政権と中国政府は同時にパリ協定を批准し、同協定が発効された。パリ協定は、気候変動枠組条約加盟国196カ国のすべてが参加する史上初の協定となる。
 

 ところが、2017年に1月に誕生した共和党のトランプ政権は、同年6月にパリ協定離脱を表明し、2020年11月日に正式に離脱した。世界各国は再びアメリカに翻弄された。

 

 周知の通り、アメリカの民主党政権は環境保護推進派、共和党政権は経済重視の環境対策反対派である。民主党政権が署名・批准した気候変動に関する国際条約は、共和党政権は例外なくそれを破棄する。参加→離脱→再び参加→再び離脱。これはアメリカが繰り返してきた歴史の真実である。

 

アメリカ政治は2大政党制である。気候変動問題でパリ協定に復帰した民主党のバイデン政権の約束は、将来、共和党政権が誕生した場合でも守られる保証がない。むしろ再び破棄される確率が高く、各国は三度目にアメリカに翻弄される。中国の根強い対米不信感はまさにここにある。アメリカによる離脱リスクは決して杞憂ではない。

 

◆対米警戒感をあらわにした習近平

不信感のほか、中国の対米警戒感も根強い。

 

台頭する新興国・中国。それを脅威と見なし覇権を死守する超大国アメリカ。これは米中関係の基本構造である。米政権が変わっても、米中関係の基本構造には変わりがない。中国台頭阻止は米国益に叶う国家戦略である。気候変動問題でもアメリカの対中カードに使われるのではないかと、中国は強く警戒している。

 

今月16日、習近平主席は、中国・フランス・ドイツ3か国首脳による気候変動オンライン会議で、気候変動は「地政学上のカード、他国攻撃の標的、貿易障壁の口実になってはならない」と述べた。名指しを避けながらもアメリカへの警戒感をあらわにした発言だ。習の発言は、22~23日開催予定の気候変動に関する首脳会議(サミット)を主催するバイデン政権へのけん制とも見られる。

 

 トランプ前政権がパリ協定を離脱した空白の4年間。気候変動問題でアメリカの対応は大いに遅れた。パリ協定に復帰したバイデン政権はこの遅れを挽回できるか? 本当にリーダシップを発揮できるか? アメリカは自らの約束を守れるのか? 中国は勿論、世界各国も今、注意深く見守っている。  (了)

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