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第70話 「2つの体験」は習近平政権を読み解くキーワード

中国経済の最新動向

 習近平国家主席は今、中国の党、政府、軍隊、国家安全、財政経済、改革深化、外交という7つの最高権力を掌握し、前代未聞の権力集中が進んでいる。ではなぜ権力集中が必要なのか?習近平氏が唱える「中国の夢」とは何か?習青春時代の「2つの体験」と「中国の夢」とはどんな関係なのか?本レポートは分析を進めたい。
 
共産党政権の「ラストエンペラー」になりたくない習近平
 習近平氏の権力集中は急ピッチで進んでいる。オバマ大統領は、習が「鄧小平以来のあらゆる指導者よりもっと早く、もっと幅広く自分の権力を固めた」とコメントしている。
 
 ではなぜ権力集中なのか?それは改革の難関攻略、既得権益の打破及び腐敗一掃のために、どうしても強力なリーダーシップが必要だという習近平氏の判断が働いた結果といえる。一言でいえば、習は共産党一党支配の危機感を強め、共産党政権のラストエンペラーになりたくないからである。元政治局常務委員周永康の摘発・審判・無期懲役の実刑判決などに示されるように、国家マネジメント能力を高め共産党政権を維持するために、習は今、賭けとも言えるほど壮絶な戦いを行っている。
 
 共産党政権を維持するために、改革を深化しなければならない。習氏が掲げる改革の順序としては、先ず国民の豊かさを重視する経済改革を行い、次に分配の公平・公正を重視する社会改革を行い、最後は民主化、人権を重視する政治改革を行う。旧ソ連や「アラブの春」の失敗を反面教師として、混乱を避けるために、当面は政治の民主化改革だけは先送りする。
 
習近平氏が唱える「中国の夢」とは何か?
 習近平主席が治国施政方針を語る時、多くの場合は必ず1つのキャッチフレーズを口にする。いわゆる「中国の夢」である。
 
 では「中国の夢」とは何なのだろうか?それを探るヒントが、2013年6月「米中首脳会談」の際における習近平氏の発言に垣間見える。これによると、「中国の夢」とは、「国家の富強、民族の復興、人民の幸福を実現すること」だと、習主席がオバマ大統領に説明している。
 
 実は、「中国の夢」提起は習近平氏の青春時代の「2つの体験」と密接な関係がある。1つは青少年時代、貧しい陝西省北部の農村部で7年にわたる「下放体験」。もう一つは1985年に、32歳の若さで河北省正定県書記を務める習が豊かな国である米国のアイオワ州一般家庭にホームスティしたという「米国体験」。
 
 「下放体験」は中国の貧しい農民生活を体験し、国民を豊かにさせるために絶えず努力しなければならない信念が育てられた。「米国体験」は中国をアメリカのような豊かな国にするために一緒懸命に頑張らなければならないという決意ができた。この「2つの体験」の結合はまさに「中国の夢」である。
 
青少年時代の「下放体験」は習近平政治活動の原点
 筆者は習近平氏が2002年浙江省副書記時代に執筆した回顧録「私は黄土大地の子」を入手した。この回顧録は、文化大革命期間中、彼が知識青年として陝西省延川県文安駅鎮梁家河村に下放された1969年1月から1975年10月までの7年間の経歴を記録したものである。
 
 この間、習近平氏の父・習仲勲が副首相の座を失脚してから、「反党分子」として批判・闘争され、軟禁、刑務所拘束、下放生活を強いられ続けてきた。習一家も不遇な時代を過ごし、習近平氏が15歳の時に陝西省北部の農山村で暮らすことになり一家離散となった。しかしこの下放時代の逆境に鍛えられ、習近平氏はメキメキと力と自信をつけ、揺るぎない信念を持つようになった。この下放生活の7年間はまさに習近平氏の政治活動の原点と言える。
 
 回顧録によれば、習は15歳で貧しい村に下放された際、3つの厳しい試練に直面した。(1)寝るところは虱・ダニだらけで夜は寝られない。(2)食事は食べにくい雑穀しか食べられない。(3)大人並のきつい肉体労働が強いられる。
 
 でも僅か2年間で、習はこの3つの試練をクリアし、村民たちに信頼され、20歳で村書記に選ばれた。村民たちと一緒に井戸を掘り、堰や道路を作り、生産を発展させ村の様子を変えた。習は、下放先の陝西省北部の貧しい村こそ「私の第2の故郷」だと語っている。
 
 習は「回顧録」の中で次のように述べている。「私の成長と進歩の原点は陝(西)北(部)滞在の7年間と言える。私の最大の収穫は2点ある。1つは実際とは何か、実事求是とは何か、群衆とは何かがわかってきたことだ。これは私が生涯受益のものであり、今でも受益している」と。
 
 習は1つの実例を挙げた。農村に来た時、時々乞食(筆者注:日本では、乞食が差別用語で、法律でも乞食行為を禁止)がやってくる。乞食が来ると、彼らを追い出したり犬に噛ませたりする。「当時、私たち学生たちは乞食に対し、『悪い人』、『不労者』というイメージが強かった。しかし、実際は当時、『肥え正月、痩せ2月、不死不活3、4月」と言われ、どの家庭でも『糠・野菜が半年の食糧』という状態下にあった。春の農作業のため、妻や子供たちは皆乞食に行き、食糧を男性労働力に残す。これらのことはいずれも当時は知らなかったが、農村で暫く生活した後についにわかった」と、習は当時のことを思い出し、感無量だった。
 
 「2点目は私の自信を育てたことだ。諺が言う。『刀は石の上に磨き、人は苦難の中に鍛え』。艱難困苦は人の意志を鍛えることができる。7年にわたる農村生活は、私にとって大きな鍛錬となる。以降、どんな困難に出会っても、当時こんなに難しい条件の下でも依然と仕事ができることを思い出せば、いくら困難であってもあの時の困難に勝ることがないと思う。今なぜやらないか、やるしかないじゃないかというやる気が出てくる。これは個人に与える影響は非常に大きい。人間には「気」が必要で、どんなことに出会っても挑戦する勇気が必要である。邪道を信じずにすれば、変化に驚かず、困難に挑むことができる」と、習氏の回顧が続く。
 
 要するに、「下放体験」は習近平の政治活動の原点であり、国家指導者になってからは政権運営にも大きな影響を及ぼしている。「我々は時々刻々、人民大衆の衣食冷暖を心掛け、人民が擁護するかどうか、人民が賛成するかどうか、人民が喜ぶかどうか、人民が納得するかどうかを、問題を考え事業を行う出発点と立脚点にしなければならない」と、習は常に強調している。
 
 習近平青春時代の「2つの体験」は、習の人生観と世界観の形成および最高権力者になってからの政権運営を読み解くキーワードとも言えよう。

 

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