5月11日、中国は10年に一度の人口センサス(国勢調査)の結果を発表した。
この調査によって、経済成長と人口変化の相関関係が明確に示された。人口減少に転じた黒竜江省、吉林省、遼寧省など東北3省は正にその典型的な事例だ。
◆経済成長の「劣等生」と言われる東北3省
黒竜江省、吉林省、遼寧省など東北3省は、全国31省・市・自治区の中では経済成長の「劣等生」といわれる。
2010~20年の10年間、中国の経済規模(名目GDP)は40兆1,513億元(約6兆338億ドル)から101兆5,986億元(約14兆7,228億ドル)へと2.5倍も拡大した。パーセンテージで計算すれば153%増となっている。
地域別経済成長率で見た場合、「優等生」行列に貴州省(251.8%)が1位、2位雲南省(205.5%)、3位チベット(201.8%)、4位安徽省(181.7%)、5位重慶市(176.2%)が続く(図1を参照)。
出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。
一方、東北地域の遼寧省は83.7%増で全国最下位、黒竜江省が96.3%増でワースト4、吉林省(116.8%)も下から13番目となっている。
図1を見ればわかるように、全国における東北3省の経済的な地盤沈下が起きている。これは当該地域の人口減少と切っても切れない関係にあると思う。
◆人口減少に転じた東北3省
今回の国勢調査によれば、2020年中国総人口は14億1,178万人、2010年に比べれば7,206万人増え、伸び率は5.38%となっている。年平均の伸びは0.53%にとどまり、2000~10年の0.57%増より伸び率は0.04ポイント低下した。
また、全国31省・市・自治区のうち、2010年より人口増加したのは25、減少したのは6だった。
図2の通り、人口増加ベスト3はそれぞれ広東省2,169万人、浙江省1,014万人、江蘇省608.7万人となっている。上記3省はいずれも高度成長によって豊かになった地域であり、10年間で人口3,791万人増え、全国増加人口の5割超を占める。
出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。
一方、図3に示すように、人口減少ワースト3はいずれも東北地域にあり、それぞれ黒竜江省645.9万人減、吉林省337.5万人減、遼寧省115.5万人減、三省合計で1,099万人も減少した。
出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。
大規模な人口減少によって、東北地域は嘗てない経済不振に陥っている。2019年の経済成長率を例にすれば、吉林省3%、黒竜江省4.2%、遼寧省5.5%と、いずれも低成長ゾーンに属し、全国の6.1%成長を大幅に下回る。
◆全国最低を記録した東北3省の出生率
現在、東北3省では人口危機を懸念する声が強まっている。それは経済成長の失速や雇用の減少によって、悲観論と失望感が強まり、若者中心の人口流失が加速しているためだ。
地元経済に失望した若者たちは、東北地域を離れ、北京、上海、広東省、浙江省、江蘇省など豊かな地域に大量に流出している。
余談だが、東北地域は昔の日本植民地「満州国」であり、1931~45年「満州国」時代の東北地域は中国で最も豊かな地域の1つだった。ほかの地域から大量の移民が殺到し、人口は1931年の2990万人から1942年の4550万人へと、11年間で1560万人も急増した(曲暁範著『近代東北城市的歴史変遷』、東北師範大学出版社2001年)。貧しい地域から豊かな地域へ移住するのは、昔も今も人間の情である。
若者中心の人口流失によって、東北地域の出生率(出生人数÷総人口数)が急速に低下し、全国の最悪水準を記録している。
今回の国勢調査によれば、2020年31省・市・自治区のうち、チベットの出生率は14.6‰と全国最高。一方、黒竜江省は5.73‰で全国最低。吉林省6.05‰、 遼寧省6.45‰、東北3省がワースト3を独占している(図4を参照)。出生率の低下は人口減少の加速に繋がり、経済成長を一層悪化させるリスクがある。
出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。
現在、東北3省は経済減速→人口流失→出生率低下→総人口減少→消費・生産減少→更なる景気悪化という悪循環に陥っている。この悪循環をどう断ち切るかが東北経済の行方にかかわるのみならず、中国経済の将来にも影響を及ぼしかねない。
予測によれば、2030年までに中国の人口はピークを越え、減少に転じる。出生率の低下、労働力人口の減少、高齢化社会の加速などを加え、人口問題は中国経済の最大のリスク要素となり、米中逆転を遅らせる恐れもある。これに対し、習近平政権はどんな人口対策を打ち出すかが世界に注目される。