前回、「年代や世代を超えて話し合うためのコツ」についてお話をしました。今回は「自分を育てるーお礼の言葉のバリエーションを増やす・話しを広げる質問の仕方・自分の強みと弱みを知る」についてお話します。
「お礼の言葉のバリエーションを増やす」
私は言葉について、新人研修で習ったレベルを現場のみの経験で伸ばすのは少し無理があると考えています。受動的に覚える事と並行して、能動的に「自己研鑽を積む」を日々意識なさっていただきたいです。なぜなら、語彙数はコミュニケーションの大事な要素のため、自分の伝えたいことをより正確に細やかに伝えられるからです。その意味からお礼の言葉のバリエーションを増やすのも全く同じ意味と捉えてください。
社会人になって間もなく、私はある場所で「有難う存じます」という言葉を小耳に挟みました。「存じます」は私の聞き間違えと気になり調べたところ、「ありがとう存じます」は、「ありがとうの感謝の気持ちを、目上の方に対して伝える丁寧で正しい表現」とありました。恥ずかしながら私の無知からの疑問にすぎませんでした。それがきっかけとなって、言葉に対する意識が広がり、会話として新しく耳にした言葉は、必ずメモをする習慣ができました。皆さんにも是非この「自己研鑽」をお勧めいたします。
【例文】
◎目上の方や取引先の方へ
・(心より)御礼申し上げます
・(心より)感謝申し上げます
・(心より)拝謝申し上げます
・(心より)深謝申し上げます
・(心より)痛み入ります
さらに使用するセンテンスを決めたら、その前にお世話になった具体例を書き添えるとあなたの気持ちが、より相手に伝わり易くなります。
・「この度は、御社への初めての訪問をご依頼したにも関わらず、ご丁寧なご対応を頂き、深謝申し上げます。」(取引先・社外の方へ)
・「昨日は私の至らないお客様対応にありがたいご指摘をいただき、お礼の言葉もございません。今後も引き続きよろしくお願いいたします。」(上司・目上の方へ)
・「先日のイベントでは、○○さんの細やかなサポートのおかげでイベントが無事終了できました。」(同僚の方へ)
以上のようなことをスキルとして頭に入れておくと、いざお礼状を書くときや次回その方とお目にかかった時、前回の話から始めるとご挨拶の言葉としてありきたりではないあなたらしさが、相手に伝わるご挨拶になるでしょう。一点気を付けて頂きたいのは、ビジネスシーンでの「助かります」は目上の方には使用しないと覚えておいてください。
最後にお勧めできる語彙の増やし方の一つは、色々なジャンルの小説を読むことです。それも会話文の多いものであれば、その言葉を使った状況とセットで頭に入るので、間違いのない表現を覚えられます。豊かな表現力は、あなたが思う以上に、会社の印象として相手に届いてしまいます。語彙力も会社の人材として大切なスキルです。皆さんの語彙力は会社の評価に大いに繋がっていることを改めて認識いたしましょう。
話を広げる質問の仕方
例えば、商談やミーティンを始める前の人間関係作りを目的で言葉を交わすことは、ウォーミングアップとしてとても大事です。その前提条件として「相手の話をよく聴く=傾聴」は、必須です。今回はどのようにしたら話を広げる質問になるかを特化して2点お話します。コミュニケーションでのあなたの立ち位置は、「聴く、7割」、「話す、3割」です。この逆の「聴く、3割」、「話す、7割」ではありませんので、きちんと頭に入れましょう。
まず一点目。「話を広げる質問は、相手の話を真剣に聴き抜く」から生まれます。つまり相手の「答え」を正確に聴き取り、より鮮明にしたい箇所を垂直方向に「掘り下げる」質問を考えます。話し手は本人に分かりきったことであると、往々にして相手を納得させる表現に至らないこともあります。あなたの的を射た質問であっても、さらなる質問が必要であればもちろん同じく垂直方向で深堀りを重ねます。
内容は変えずに、質問の言葉を言い換えることで答え易くなることもあります。そのような対応策により、相手の話の内容に限りなく近い答を引き出すことができます。このコミュニケーションが出来た時、両者の間には、かなりの「信頼関係」が生まれます。
ただ質問には、理由を知りたいときに使うオープンクエッション(開かれた質問)と発言内容の確認・明確化に使うクローズドクエッション(閉ざされた質問)があります。もしあなたがクローズドクエッションを選択し、相手が「はい」の一言で終わった場合、あなたは急いで次の質問を畳かけてください。
二点目は水平方向を意識した質問にシフトすることです。この時は、突然内容の項目が離れている項目にシフトするのではなく、少しでも前の質問と共通する内容を含む質問がベターです。相手は答え易いと思うでしょう。あなたが相手の答えについて覚えておくのは、それを「受容」するということです。相手へ投げるあなたの質問の数は、相手があなたに抱く好印象と比例します。内容によっては、やり取りの時間がかかるかも知れませんが、相手にはあなたの本気度が目にしっかり映っていますから、水平方向の質問も頑張って試してみてください。
自分の強みと改善点を知る
自分の強みからお話します。「強みについて知る」のは、改善点について知るより難しくないと感じると思います。ただ大事なのは、何を目指して強みを強化するかの目的をはっきりさせましょう。そこを見落とすと努力が迷子になってしまいます。自分の強みは○○からスタートして、着実に実力をパワーアップしていけるように慎重に、少し時間的ゆとりも入れて計画を立てます。計画実行します。立てた計画が進んでいるか厳しく自己チエックをします。内容によっては先輩・上司のチエックも受けてください。目的達成にはこのサイクルを何度が繰り返すも想定に入れておくとよいでしょう。
「改善点を知る」についても、まずその目的を定めるのは、「強みを知る」と同じです。かれこれ20年以上前のことで恐縮ですが、パナソニックホールディングの本社(大阪府門真市)に、研修のご依頼で数回伺ったことがあります。改札を出てすぐのところにコンビニエンスストアがありました。訪問時間の調整のため店内に入りました。驚いたことにすぐに目に飛び込んだのは、沢山の文庫本でした。作者はすべて「経営の神様」と言われてきた松下幸之助さんの著作でした(PHP研究所という出版社も立ち上げています)。
それらの本を見ながら、その何年か前に松下幸之助さんが『素直』と書かれた手のひら大の額をお持ちになった写真を見て、一代で世界進出も果たした経営者の名言の一つが、なぜこのように簡単な言葉?と心に引っかかったことを思い出しました。あの時の「なぜ」を見逃してきたことに、私は偶然本社の前で気づかされました。「改善点を知る」には、この『素直』を是非覚えておいて欲しいです。人は社歴とともにスキルを身につけていくことができますが、独りよがりのよろしくない面もスキルに付け足してしまうことがままあります。『素直』を意識すると頭の中に自分の新しい考えや、人のアドバイスを受け入れる空間が生まれます。その頭の状態で、「強みを知る」と同じような対応で改善点の目標に向かって進んでください。