前回に引き続き、わたくし、インフルエンザです。
わたくしに限らずウイルスというのは、主に皆さんの鼻や口から侵入します。しかし、無事侵入できたとしても、「繁殖できるかどうか」は、けっこうむずかしい問題です。
まず、みなさんのカラダの「鼻粘膜」がわれわれを捕縛します。鋭敏な粘膜さんに捕まると、瞬時に溶かされてしまいますから要注意です。
また、「口腔粘膜」もけっこうな攻撃力をお持ちです。とくに耳下腺(じかせん)から出る唾液は強力ですから、皆さんがよく噛んで食べると、耳下腺、顎下腺、舌下腺という3つの唾液腺がしっかりはたらいて、そうした状態の口腔環境はわたくしどもには難関です。
唾液がよく出ると皆さんのカラダにいい理由がもうひとつありますよ。唾液によって「食べ物が入ってくるぞー」とカラダが感じたら、「胃酸」の準備がしっかりされるからです。
胃酸というのはかなりの「強酸」なんです。硫酸とか硝酸とか「じゅっ」って感じをイメージ下さいね。それで入ってきたものを消毒・殺菌します。そんなのを浴びると、われわれひとたまりもありません
ちなみに上の図のように、のどは、前方に「気道」、後方に「食道」に分かれています。「軟口蓋」というフタが空気と食べ物をいちいち仕分けをしているんですね。
汚い話で恐縮ですが、気管から「ゴホン」とあがってきた「痰」を出すに出せずに飲み込んでしまったことがありませんか。ふふーん、ありますよね。
でも、ご安心ください。それは胃に行けば、胃酸で殺菌されますから。
わたくしどものとりあえずのターゲットは、その食道から胃に入る道は避けて、気道から肺に入ることです。ここに入ることができれば、全身をめぐることができますからね。
しかしながら、気管粘膜にも肺の中にも、「免疫細胞」さんたちが虎視眈々とわれわれを狙っています。この包囲網をかいくぐり、わたくしインフルエンザの繁殖環境を構築するまでにはかなりの労力が必要なんですよ。そう。一口に「感染」といっても、かなり険しいプロセスなのです。
先ほど見たように、物質としてのウイルスは鼻と口を通して侵入いたします。けれど、それだけでは「感染」は成り立ちません。
東洋医学に「邪」という考え方がありますが、その「邪」には6つあります。暑邪、燥邪、火邪、湿邪、寒邪、そして風邪(ここでは、ふうじゃと読みます)の6つです。(なんでインフルエンザがそんなことまで知ってるんだ!とつっこまないで下さいね)
このうち、寒邪と風邪は、下の図のようにちょうど首筋から背中上部の「風門」というツボを狙いうちします。
カラダ前面の鼻・のど、カラダ後面の風門。
この両サイドからの浸入が合わさって、はじめて「感染」が成立するわけなんです。(首すじに、ストレスを背負っていらっしゃるカラダは、格好のターゲットですからね)
感染って「感じて染まる」と書きますが、この言葉、まさしく言い得て妙です。
わたくしどもが繁殖できる条件の大きなものに、この「感じて染まってもらう」というのが大きな要素なんです。
肺の出先器官である鼻腔は、大きな「空洞」を形成しています。
この空洞は、「気道」につながるのはもちろん、
・鼻涙管を通じて「眼」と、
・耳管を通じて「耳」と、
・副鼻腔を通じて「頭部」とつながっているのです。
つまり、肺は、鼻腔を通じて、「眼」「耳」「脳」とつながることで、さまざまな情報を集めているんですね。
われわれインフルエンザが侵入し、繁殖しやすい状況というのは、この鼻腔から気道にかけての空間が「ある種の情報に染められている」状態です。
その情報とは、前回もお話ししました通り、
「憂鬱」、「絶望」、「せつない」、「無気力」、
といった感情なのです。これらに染まっている気道空間は、わたくしどもにとって、非常に感染しやすい。
ところで、皆さんは呼吸を通じて「大気」とつながっていますね。
いわば、皆さんの肺は、大気と常に情報交換を行なっています。そこには、湿度、温度、酸素濃度といったものから、見えない空気の質、大気の情報まで含まれます。
わたくしインフルエンザが大流行するときは、大気中に「憂鬱」、「絶望」、「せつない」、「無気力」といった感情が充満しているときなのです。
わたくしの大流行の歴史を辿ると、第1次世界大戦後の1918年のスペイン風邪をはじめに、大きな戦争の後に多いと指摘されています。確かに戦争には「絶望」といった空気はつきものです。
わたくしがふつうの風邪と違うのは高熱を出すことですから、ホットな戦争を象徴する空気が世界中に伝播している、とも見ることできるでしょう。
「インフルエンザからの警告」などと、えらそうなことまでは申しませんが、わたくしも不本意ながら皆さんのカラダにお邪魔することで、世界の空気を浄化しようとしておる側面もあるのです。信じてもらえるかどうか、あまり自信はありませんが、わたくしも身を挺して世界平和をお祈りしているのです。
いま大流行を防げているということは、皆さんの平和への気持ちが、わたくしどもより勝っている、と考えていただけたら幸いでございます。
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