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人事・労務

第15話 中小企業における今年の賃上げのポイント

賃金決定の定石

 これまでにも昇給運用の大切さについては、本コラムの中でも繰り返し取り上げてきましたが、2月も中旬に入り労働組合からの具体的な要求の提出等、企業ごとの労使交渉も本格化するなか、経営サイドもいよいよ自社の賃金戦略を具体化しなければいけない段階に入ります。

 

 とはいうものの、労働組合の推定組織率は昨年16.9%と過去2番目の低さを記録。大手企業の一部を除けば、中小企業以下の労使交渉の実態は外からは見えません。3月中旬の回答指定日以降に、大手の動向を見極めながら自社のスタンスを決めるところも多いため、構成組織の方針以上の各社の取り組みを察知することは至難の業です。自社独自の賃金戦略を考えるには、横並び意識を捨て、自社の置かれた状況を正しく把握したうえで臨むことが重要です。

 

 

【昨年の賃上げ状況】

 昨年の賃上げ率を振り返ると、主要企業(厚生労働省「民間主要企業・春季賃上げ要求妥結状況」)が1.86%であったのに対し、中小企業の賃上げ率は1.68%(経団連「春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果」)に止まりました。連合の集計では、中小企業に該当する従業員規模300人未満企業の賃上げ率は1.74%でした。

 

 いずれにしても、中小企業では定期昇給分(賃金カーブ維持分とも呼ばれます。)のみで、ベースアップがほとんど行われなかったと考えて良いでしょう。

 

 

【今年の賃上げ見通し】

 今年の賃上げも定昇のみが基調となると考えられます。賃金管理研究所では、主要企業の賃上げ率1.90%、中小企業の賃上げ率1.73%を見込んでいます。

 

 昨年9月に緊急事態宣言が全面的に解除されてからは、政府経済対策による下支えもあり、企業業績は大手製造業を中心として大きく持ち直すと考えられ、賃上げにもプラスに働くものと思われました。しかし、資源価格高騰や円安の影響もあって、輸入依存度の高い中小企業での業績回復の遅れが見込まれ、更にオミクロン株の急速な感染拡大に伴って消費機会が喪失するとなれば、GDPギャップは供給過剰となり、賃上げにとってはマイナスに働くと考えられます。

 

 

【雇用環境は回復基調が続く】

 生産年齢人口の減少は進み、新規学卒者もピークアウトするという状況にあり、採用市場のひっ迫が続くという基調に変わりはないため、雇用環境は回復することが見込まれています。新規学卒者の需給関係を考えれば、採用初任給の水準は今後も上昇し続けることでしょう。自社の採用初任給の水準をどう考えるのか。試用初任給を引上げるのであれば、先輩社員とのバランスを適正に維持することも重要ですし、新卒採用を今後も継続するのであれば、3年先、5年先を見据えたベースアップ計画をも視野に入れておくことが必要です。

 

 

【賃金水準の低い会社は生産性向上策とともに戦略的なベアを】

 「企業業績が回復しなければ、人件費上昇に直結するベースアップはとても考えられない。」というのが多くの経営者の本音だといえるでしょう。そこでコストとしての人件費削減を図る会社も出てきます。しかし、人件費単価は急に下げたりできませんから、自ずと労働時間を減らして対処することになります。このとき、多くのケースでは労働時間が減った分だけ付加価値生産額も比例して低下することになります。

 

 対面型サービス業のように需要が蒸発した状況でも、自ずと労働時間は減少します。労働時間が減少すればコストは確かに減少しますが、これは従業員の給与総額が減少していることを意味します。

 

 このような状況が長く続くと、優秀人材の流出につながる恐れが出てきます。労働時間が短縮しても、労働生産性が上がることで付加価値精算額が増えれば、ベースアップ(人件費単価の引上げ)への途も開けるはずです。

 

 

【業種別の動向を正しく見極める】

 企業業績は「K字回復」という言葉が示すように、業績の好不調の差は業種間だけでなく、同一業種内でも企業間格差が顕著に現れる傾向にあります。例えば、経団連「春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果」では、「運輸・通信」という業種区分がありますが、「運輸」の中でも宅配便は好調、その他のトラック輸送はまちまちであり、鉄道は未だ回復への道筋が見えない状況にあります、航空会社に至っては、非常に厳しい状態が続いています。一方、「通信」業界は、テレワークやデジタル化の進展により好調な業績を維持しています。企業ごとに状況が大きく異なるのが今年の賃上げの特徴ですので、自社の業況をしっかり見極めて対処することが大切です。

 

 

【世間相場との比較は「率」と「額」の両方でとらえる】

 賃上げの世間相場というと、どうしても賃上げ率(%)だけで捉えがちです。しかし、自社の従業員構成、特に平均年齢の若い会社や平均給与額が低い会社では賃上げ率は高めに、平均年齢の高い会社や平均給与額の高い会社では賃上げ率は低めに出るのが一般的な傾向です。例えば、同じく平均4,000円の賃上げを実施した会社であったとしても、平均給与額24万円のA社では賃上げ率は1.67%、平均給与額28万円のB社なら1.43%にしかなりません。自社の状況を踏まえて、賃上げ率が適正であるかを判断する必要があるのです。

 

 賃金水準が低めであるにも関わらず、中小企業としての世間並みの賃上げ率で満足していては、同業他社との実質的な賃金格差は次第に開き、いつしか直ぐには追いつけないほどの決定的な差になるかもしれません。そうならないためにも、定期的な賃金水準のチェックは必要です。

 

 賃上げ率だけではなく、平均賃上げ額にも目を向けるともに、定型業務、担当職レベル、主任・係長等の指導職層クラス、課長・部長等の管理監督者層、それぞれの水準(絶対額)にも留意していただくと良いでしょう。

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