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第40話 上海市「ブタの死骸」騒ぎから見た中国の環境問題と食の安全性

中国経済の最新動向

 今年初めに、北京市在住の友人から1通のメールを送ってきた。メールには次の「中国人自虐ジョーク」が書かれてある。
 
 「ある中国人観光客はアフリカ滞在中、毒ヘビに咬まれたが、無事だった。ところが毒ヘビが死んでしまった」と。
 
 このジョークは有毒物質が入っている粉ミルク事件や有毒食用油事件、毒ギョーザ事件など中国の食品を風刺するもので、食の安全性に対する国民の懸念が高まる現実を反映している。
 
 実は、私の出張先の上海市では新たな食の懸念が高まっている。「ブタの死骸」の漂流発覚で、水源の安全性とブタ肉や肉製品の安全性が大いに懸念されている。
 
 3月中旬、現地調査のため、上海市に行ってきた。ちょうど「ブタの死骸」騒ぎの渦中だった。3月初め、上海市中心部を流れる黄浦江にブタの死骸が大量に漂流してくることの発覚が騒ぎのきっかけとなっている。
 
 地元政府当局によれば、ブタの死骸の回収作業は上海市及び隣接する浙江省で行われ、ピークの時は一日数千匹が引き揚げられた。3月21日までに上海市では1万570匹のブタの死骸を回収し、浙江省でさらに3601匹が回収され、トータルでは1万4000匹を超える。
 
 こうした大量のブタの死骸がいったいどこから漂流してきたか? なぜブタが大量に死んでしまったか? ウィルス感染死ではないだろうか? 誰がブタの死骸を川に不法投棄したか? ウィルス感染のブタの死骸は市民の飲用水源にどんな影響を及ぼすか? 病死したブタは豚肉または豚肉製品としてマーケットに流通しているかどうか? 上海市民の疑問や不安が高まっている。
 
 上海市当局の発表によれば、ブタの耳につけられた標識から死骸は隣接する浙江省の嘉興市から流されてきたものと判明。水質の検査では異常がないという。一方、嘉興市当局の発表によれば、今年、気候異常のため、5万匹以上のブタが凍死した。ウィルス感染による病死ではない。これらのブタの死骸の一部は同市内の業者によって川に不法投棄された。また両市当局は共にウィルス感染によって病死したブタの肉や肉製品の市場流通を否定している。
 
 しかし、当局の発表を信じる地元市民は少ない。筆者は一般市民やタクシー運転手に取材したところ、市民たちの疑問と懸念は次の4つである。
 
疑問1、「凍死説」は本当か嘘か?これまでの経験によれば、ブタの大量死亡はほとんどウィルス感染と関係ある。言い換えれば、今回、黄浦江に漂流してきた1万4000匹を超えるブタの死骸は「病死ブタ」の可能性が高く、当局発表の信ぴょう性が疑われる。
 
疑問2、水源の安全性への疑念。当局は水源の水質に異常がないと発表しているが、いつ、どこ、どんな種目の検査、どれほどの頻度で検査を実施しているかなど、市民を納得・安心させる情報公開は不十分である。「1万匹に上るブタの死骸が黄浦江に浮いていて、水質は基本的に安全だなんてあり得ないだろう」と、ブタの死骸による水源汚染の疑念が払しょくされない。
 
疑問3、仮に「病死ブタ」である場合、マーケットに流通しているかどうか。当局は否定しているが、実際、同じ浙江省の温嶺市裁判所は3月12日、ウィルス感染で病死したブタを加工して販売する事件の一審判決が言い渡された。2010年から2012年までの2年間、病死ブタ販売にかかわった容疑者46人が有罪となり、最長で禁錮6年6月の判決が下された。販売された病死ブタは1000匹にのぼる。今回の大量に死んだブタは本当にマーケットに流出していないかが疑問される。
 
疑問4、なぜブタの死骸の不法投棄を禁止する法律は遅々と整備されないか。当局の不作為は市民の不信・不満を引き起こしている。
 
 今年1月の北京濃霧・PM2.5問題、3月上旬の黄砂問題に続き、今回の、上海市で「ブタの死骸」騒ぎが発生し、国民の間では中国の環境汚染や食問題の深刻さが再認識される結果となっている。環境を犠牲にして経済成長のみを追求するのは本当にいいのか?水を含む中国の食の安全性は本当に大丈夫なのか? いま中国ではホットな話題となっており、国民レベルの議論が続いている。この議論の結果次第では、中国の環境問題や食の安全性、及び経済成長の行方を左右するかも知れない。
 
 次回のコラムは、北京現地調査の結果を踏まえ、日本でも関心が高まる中国のPM2.5の実態をご報告する。

 

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