今年3月に発足し李克強首相を筆頭とする中国新内閣は、これまでの輸出・投資牽引型経済政策を見直し、大型景気刺激策を発動せず、経済構造の改革に注力する方針を打ち出した。
だが、今年に入って中国経済成長率は2期(四半期)連続で減速している。昨年第4四半期の7.8%に対し、今年1Q7.7%、2Q7.5%となり、このまま行けば、政府目標の7.5%を下回る恐れが出てきた。
投資拡大による景気刺激策を取らないという既定方針で経済運営を継続するか、それとも新たな景気刺激策を発動するか。中国経済は再び岐路に立っており、中国政府は難しいかじ取りを迫られている。
その中で、「新動向」と見られる動きが出ており、それは李克強首相の最新発言の「中国経済上下限論」である。
新華社通信によれば、7月9日李克強首相は広西自治区で開かれた、一部の省・自治区の責任者が出席する「経済情勢座談会」で次のように発言している。
「合理的な区間に経済運行を調整し、GDP成長率と雇用は下限を下回ってはならず、物価上昇率は上限を超えてはいけない」と。
それでは李首相が述べた「下限」と「上限」が何だろう。はっきり言うと、これは政府の2013年度目標である。今年3月の「政府活動報告」の中で、次の目標が掲げられている。
*経済成長率 7.5%
*新規雇用 900万人(失業率4.6%)
*物価上昇率 3.5%
言い換えれば、通年成長率7.5%(四半期ベース7%)という「下限」を下回ってはならず、物価上昇率3.5%(単月ベースでは5%)と失業率4.6%という「上限」を突破してはいけない。これは李首相の「死守ライン」とも言える。
李首相の「上下限論」言及は景気悪化の裏付けでもある。今年1~6月、中国の三大輸出先のEU向け3.9%減、日本3.8%減、米国1.8%増となり、不振が目立つ(図1を参照)。特に6月の輸出全体が3.1%減に転じ、2012年1月以来のマイナスとなる。1~6月の消費伸び率は12.7%だが、政府目標の14.5%より約2ポイント低い。投資も昨年より伸び率が0.5ポイント低い(図2を参照)。このままでは今年の政府目標の実現は危うくなる。
李首相の「死守ライン」発言は、経済政策に関する政府既定方針の修正とも受け止められる。即ち、四半期ベースで経済成長率が7%前後に減速すれば、中国政府は躊躇なく新たな景気刺激策を発動するということだ。
勿論、中国経済は暗い材料ばかりではなく、明るい材料も出ている。例えば、今年上半期の新規雇用創出は732万人にのぼり、前年同期に比べ38万人増加となっている。この勢いを保ち、新規雇用の増加を確保するためにも、年間成長率7.5%(四半期ペース7%)を死守しなければならない。
個人的には、2013年通年の中国経済成長率は政府目標7.5%成長の実現が可能と思い、7%を下回るシナリオが考えにくい。