今回はこれまでお話ししてきたチョコ案制度のまとめを行います。
日本のモノづくりは改善によって支えられているとか、社員全員が参加して改善が行われているといわれています。ところが現場に行くと、そうともいえない状況も目につくのです。
日本語が必ずしも十分でない外国人の方や、あるいは日本人であっても、それぞれの会社での経歴が浅い派遣従業員の方も多いので、「改善活動をしようにもできません」と諦めている経営者もおられます。
実際に現場に行くと、人の入れ替わりが激しく、ほぼ毎日新しい人がどこかの現場に来ている状態で、「その日の仕事の指導が忙しくて、とても改善まで手が回らないよ!」といった、切羽詰まった悲鳴も聞こえてきます。
しかし現在、元気がないと言われている日本のモノづくりが再び元気になって、日本を支える力を取り戻すためには、この改善の力を強化することが欠かせないと考えています。
そこで、昔と状況が違うから難しいというのではなく、この状況でも改善を引き出せる「新しい方法」を作り出すことが、重要だと考えました。それがチョコ案制度です。
埼玉県の株式会社チノー久喜事業所では、従業員約140人全員がこの一年間、ひと月も欠かさずにチョコ案を実行し、提出してくださいました。その結果、この一年間で生産性向上、リードタイム短縮などにおいて、きわめて大きな成果をあげることができました。
以前から、久喜事業所にも改善提案制度はありましたが、必ずしも全員活動とはいえない状況でありました。作業現場を細かく見て回ると、それぞれの方の仕事ぶりは素晴らしく、いろいろな工夫が既にされていました。ところがさらに細かく見ると、それでも苦労をしているところがたくさんあることが分かりました。
それを指摘すると、確かにやりにくさはあるけれど、自分ではどうしようもないし…、という答えが皆さんから返ってきました。そこで、生産改革室長のSさんがチョコ案の仕組みを使って、全員が自分の身の回りのちょこっとした不便を変えていこうと決めたのです。
最初は改善したいラインに私も入って、みんなでたくさんの改善案を出して、それをみんなで実行しました。やってみると、材料の集め方や道具など、一人ではできないことがたくさんあることが分かり、それらは生産改革室が引き受けることとなりました。
やってみるとだんだんとできることが増えていき、そしてある時に、パートタイマーのJさんが全員の前で自分の仕事の改善結果発表をして下さったのですが、それは久喜事業所で働くすべての方々が納得する内容でした。すなわち、みんな同じような苦労を抱えていました。ただ慣れてしまっていたので、気にならない状態になっていたのです。
最初は身の回りの改善から始まった久喜事業所のチョコ案ですが、現在では設計の変更にまで広がっています。すべて現場中心の改善です。
現場で働いている方々は、長期間にわたって作業を繰り返していますから、とても多くの問題に気付いています。もし、それらを上手に引き出すことができれば、それ以外のどんな方法よりも効率的な改善ができるはずです。
これまでチョコ案制度の特徴として下記の9つをあげてご説明して参りましたが、これでなければいけないという厳しいルールではありません。これらはチョコ案制度をご理解頂くための項目であり、それぞれの会社の状況に合わせて運用されるのがいいと思います。
<チョコ案制度 9つの特徴>
1) 大きな成果を求めない。
2) 独創性を求めない。
3) 会社の役に立つことや仲間が喜ぶことであれば、従来の改善提案の常識にとらわれずすべて評価する。
4) 結果のみでなく、プロセスも評価する。
5) 報告の用紙も極力簡素化し、「改善以前の状況」と、「改善後の状況」と「自分の氏名」の3点を書けばよいというメモ程度の内容で十分とする。
6) 一般の改善提案制度のように内容の等級付けをしない。
7)報奨については1件100円前後の金額が妥当であると考える。
8)1ヶ月に全員が最低でも1件の改善を実行して報告するといったルールを設ける。
9)気軽な発表会を実施し、みんなで改善というものに慣れ親しむ。
改善を一部の専門家の仕事とするのではなく、全員が実行すると本当にすごい成果が出ます。全員改善ができると、それは「部分最適」ではない、「全体最適」の改善へとつながり、会社の総合能力を引き出す改革につながるからです。
そこで、今回はチョコ案制度をご紹介いたしました。皆さまどうぞ全員で頑張って、これからの変化の時代に、新しいモノづくりの道を切り開いて下さい。応援しています。もし分からないことがあったら、どうぞご遠慮なく私にご連絡ください。
追伸 文中でご紹介しました埼玉県の株式会社チノー久喜事業所は5月に行われます工場見学会での訪問先工場の一つです。ご興味ある方は是非ともご参加ください
◎柿内幸夫と行く!隠れた「お手本」企業の工場見学 http://jmcasemi.jp/seminar/seminar.php?CONTENT_ID=668