8月下旬、多摩大学沈ゼミの学生たちを連れて中国合宿に向かった。北京、西安、上海3大都市を回り、悠久な歴史を持つ中国と、猛スピードで近代化を実現しつつある中国、という2つの中国を満喫した旅だった。
高度成長で疾走が続くなか、訪れた3都市はいずれも町の表情が明るい。特に印象に残ったのは、昼も夜も大河のように流れる車の群れだった。
私は日本に定住し始めたのは、21年前の1989年のことだった。当時、中国は「自転車の王国」と言われ、町を走る車 は極めて少なかった。1990年中国の新車販売台数は僅か55万台で、日本(777万台)の14分の1、アメリカ(1390万台)の25分の1に過ぎな かった。一般庶民にとって、車は夢のような遠い存在だった。
特に、乗用車は当時、局長クラス以上の政府高官しか乗れない交通手段だった。乗用車に乗っているかどうかは、社会的地位が高いかどうか、大きな権限を持っているかどうかを計る尺度であり、権力、地位の象徴的な存在だった。
ところが、20年後、中国は一躍して米国を逆転し、世界最大規模の自動車消費大国になった。2009年の中国の新車販売台数は1364万台にのぼり、アメリカより320万台も多い。中国の躍進ぶりは20年前、誰も予測できず想像もつかなかっただろう。
今年に入って、新車販売の爆発的な伸びの勢いが衰えず、1-8月の販売台数は前年比39%増の1158万台に達した。 通年では1700万台達成するのはほぼ確実な状態となっている。特に北京市では一日1900台のスピードで急増し、6月末までの半年間だけで35万台も増 えた。
中国自動車市場の今後の展望について、次の2つのデータに注目すべきと思う。
1つ目は3000ドルの経験則である。これまでの世界各国の経験則からいうと、1人当たりGDPが3000ドルを突破すると、モータリゼーションの時代に突入するといわれる。
たとえば日本が3000ドルを突破したのは1973年であり、それ以降モータリゼーションの時代に突入した。韓 国の場合、3000ドルを突破したのは1983年で、1980年半ばころから韓国もモータリゼーションの時代に突入した。中国が1人当たりの GDP3000ドルを突破したのは2008年だが、翌2009年には新車販売が前年比で46%増、今年1-8月期は39%増をそれぞれ記録した。
中国政府は今後5年間の国民所得を倍増させる方針を検討している模様だ。昨年4000ドル弱だった1人当たりGDP は、2013年までに5000ドル突破し、2020年までには1万ドル突破する見通しとなる。国民の豊かさの実現によって、中国もモータリゼーションの時 代に入ることは間違いない。
もう一つのデータは、車の普及率だ。アメリカの車の普及率は80%、日本は60%と言われるが、中国は昨年末時点で 100人に6台、すなわち6%しか持っていない。これはトラックやバスを含めた車の台数だが、乗用車に限って言えば、僅か2.6%と極めて低い普及率と なっている。
13億の人口規模、高い経済成長率と低い製品の普及率という現状を考えれば、中国の新車販売は、あと2、3年で2000万台の大台に乗せるという見方は妥当だと思う。