中国の経済が1年でどれだけ発展したかをGDPの増加額でみれば、前年度からの増加額は9395億ドルにのぼり、この数字は、2010年度のGDP世界15位のオーストラリアの9248億ドルに相当する。つまり、中規模な国1つの1年のGDPを上回る実績をあげたということになる。中国経済は正に「巨艦」のような存在となっている。
要するに、中国の輸出コストは大きく上昇しているのに対し、主要輸出先の国々である日米欧の購買力が低下している。こうなると、中国の輸出拡大は期待できず、輸出牽引型の高度成長は行き詰まる恐れが顕在化する。
実際、今年に入ってから、中国経済の減速傾向は続いている。1Q9.7%、2Q9.5%、3Q9.1%。そのまま行けば、4Qは9%を下回る恐れがある。「内憂外患」を抱える中国経済の次の一手は何か?中国政府はいま何を考えているか?どんな対策を模索しているか?全世界は注意深く見守っている。
中国経済の最新動向を把握するために、今年3月と9月、筆者は2回にわたり、北京、上海、江蘇省、広東省など沿海部のほか、西部内陸地域にある四川省の成都、直轄市の重慶も訪れた。
政府幹部、経済学者、企業経営者などとの意見交換および現地視察を通じて、中国経済の次の一手の輪郭が見えてきた。これは成長牽引車の輸出から内需へのシフト、成長センターの沿海部から内陸部へのシフトという「2つのシフト」である。
まず、成長牽引車の輸出から内需へのシフトについて、中国政府は国民所得倍増と個人所得税減税という内需振興策を打ち出している。第12次5カ年計画(2011~15年)では、国民所得の伸び率は「経済成長率を下回らないように」という表現だが、実質的に倍増を目指している。この長期戦略に基づき、各地方は年頭から相次いで最低賃金の約2割アップを発表した。
個人所得税減税については、今年3月に全人代で「個人所得税法」改正案を採択し、徴税基準は月収2000元から3500元に引き上げられた。個人所得税の減税は9月1日より実施。この減税措置により全国では6500万人は恩恵を受けることになる。
国民所得倍増計画も個人所得税減税も結果的には国民の可処分所得の増加に繋がり、個人消費を刺激する効果が大きいと見られる。筆者の予測では、中国1人あたりGDPは2015年に1万ドル前後、2020年に2万ドル前後に達し、今の4倍強になる見通しである。個人的には、今後10年間、中国の購買力向上と先進国の購買力低下の同時進行は時代の流れとなると見ている。
次に、成長センターの沿海部から内陸部へのシフトは、実際に既に起きている。2008年米国発金融危機以降、2009年より中国経済の成長率は「西高東低」(西部が高く、東部が低い)傾向が続く。2010年中国全体10.4%成長に対し、東部地域の上海9.9%、北京10.2%など全国平均を下回っている。西部内陸地域の重慶17.1%、四川省15.1%、内蒙古14.9%などは全国平均を遥かに上回っている。これは輸出牽引型の東部沿海地域は、近年、原材料高、人件費急上昇、人民元高、人手不足、外部環境の悪化などによって、生産コストが上昇し、競争力が落ちているからである。逆に、内需依存度が高い西部内陸地域は、沿海地域に対し、豊富な労働力、安いコスト、拡大する消費など相対的な優位性が出てきたのである。筆者が重慶、成都を視察した時、成都イトーヨーカドー、重慶高級ブランド専門店ルイヴィトンの顧客の多さに驚いた。
「巨艦」中国の次の一手から、日本企業の中国ビジネスの次の一手も見えてくるだろう。これは「世界の工場」活用という戦略から巨大市場を狙う戦略へのシフト、対中投資の東部沿海地域集中から西部内陸地域へのシフトである。