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第96話 「雄安新区」の設立から見た米中関係の密度

中国経済の最新動向

 今年7月末、筆者は中国経済の最新動向を把握するため、現地調査を実施し河北省雄安新区を訪れた。雄安新区は北京の南方にあり、北京から雄安新区までの直線距離は約160キロ、天津から雄安新区までもほぼ同じ距離である。筆者は北京南駅から高速鉄道を利用し約80分で雄安新区の最寄り駅・白洋淀駅に到着した。
 
 雄安新区は今年4月1日、党中央、国務院の決定によって正式に設立され、深?経済特区、上海市浦東開発区に次ぐ第三の国家級開発区となる。行政区の総面積は2000平方キロで、河北省保定市に管轄される雄県、容城、安新3県を含む。中央政府の新区構想では、初期開発面積を100平方キロ、中期開発面積を200平方キロ、長期開発面積を2000平方キロとそれぞれ設定し、2030年まで開発を完了させる予定だ。 
 
 白洋淀駅を出ると、さっそくタクシーで新区政府の駐在地・容城県奥威路に向かった。現在、新区政府ビルがまだ建設されてないため、区政府準備委員会が近くのホテル奥威国際大飯店の一角を賃貸し事務所を構えている。
 
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写真説明)雄安新区政府準備委員会が事務所を構える奥威国際大飯店を訪れた筆者。
 
 
 奥威国際大飯店を出て、車で著名なリゾート地である白洋淀に向かい、約20分で習近平国家主席が今年2月に視察された現場に到着した。白洋淀は河北省内の最大の湖であり、143の湖から構成され、まさに雄安新区の中心地とも言える。総面積が366平方キロにのぼり、雄安新区面積の5分の1に相当し、北京市周辺の最大の水源地と言われる(写真参照)。白洋淀沿いの雄県、容城、安新3県はほとんどが白紙のような未開発地であり、優越な自然環境及び北京との距離から見れば、なぜ習主席が未来の副都心として雄安新区の設立を決断した理由がわかる。
 
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写真説明)今年2月に習近平国家主席が視察された、河北省内最大の湖・白洋淀。
 
 
 習主席の決断の狙いは次の3つと思われる。1つ目は習近平政権を権威付けるレガシー(政治遺産」として後世に残る。深?特区は1980年代初頭に鄧小平氏の決断、上海浦東開発区は1992年江沢民政権の決断、雄安新区を設立すれば、習近平は鄧小平、江沢民に匹敵できる21世紀のレガシーを手に入れる。
 
 2つ目は首都機能の分散化。北京市は人口急増で大気汚染や交通渋滞など深刻な問題に直面し、遷都を回避するために「非首都機能」部門の副都心への移転が急務となる。
 
 3つ目は経済成長の新たな起爆剤への期待。一期目の習近平政権は反腐敗で得点を稼いでいるが、肝心の経済成長の実績は今一だ。今秋開催の党大会を経て二期目の習政権が発足し、政権運営の重心を経済成長へシフトするだろうと見られる。雄安新区の設立は大規模なインフラ投資需要が発生し、経済成長の新たな起爆材として期待される。
 
 雄安新区の開発を軌道に乗せるため、習近平政権は人事布陣にも腐心している。今年4月、経済特区のモデルである深?市の許勤書記が河北省長代行に、天津市浜海新区書記を経験した袁桐利氏を河北省副省長兼雄安新区準備委員会主任にそれぞれ任命した。元上海市長の徐匡迪氏は北京・天津・河北省一体化専門家諮問委員会座長を務める。言い換えれば、習近平主席は広東省深?特区、上海浦東開発区、天津浜海新区の人材を登用し、これまでの経済特区の成功経験を生かし雄安新区の成功を目指す。
 
 今回、筆者の雄安新区訪問の最大の成果は、実は習近平主席の決断とアメリカの関わりに関する情報を入手したことである。
 
 関係者の話によれば、ヘンリー・ポルソン元米財務長官は雄安新区の設立に深くかかわっている。事実、2012年、当時の河北省保定市長・馬誉峰氏はポルソン氏本人及びポルソン基金会にご協力を申し入れ、保定市及び白洋淀エリアの環境評価を行うよう依頼した。ポルソン基金会は評価の力点を白洋淀エリアの環境保全及び北京市の首都機能分散化に置いていた。2年後の2014年、ポルソン氏はこの評価報告書を地元政府に提出したと同時に、曾培炎・元副総理を通じ習近平国家主席にも渡した。
 
 ポルソン基金会のこの評価報告書の趣旨は、意外に習近平氏の「北京・天津・河北省一体化」という戦略構想と一致している。習氏の戦略構想は1億3,000万人口を有する北京、天津、河北省を一体化し、巨大な経済圏を形成させる。中央政府は一部の行政機能と兵站保障機能を保定市に移転し、北京市の交通渋滞や環境汚染を改善し、周辺地域の経済成長を促進する。ポルソン基金会の報告書及びいくつかの提案は、習近平氏が構想中の「北京、天津、河北省一体化」戦略にとって、価値が高い参考材料に違いない。
 
 同年7月、習近平国家主席はポルソン氏と会談した。その際、習は「北京・天津・河北省一体化」戦略による難題解決を将来に残るレガシー(政治遺産)だと考え、「これは私個人の発想だ」とポルソン氏に告げた。当時、雄安新区の名前も新区構想の詳細も決まっていないが、その輪郭は習主席の胸中に既に出来ている。この会談から2年10ヵ月後、習近平氏が自ら決断した雄安新区は正式に発足した。中国の最高指導者から新区構想を最初に告げられた外国人は、正にポルソン氏である。この事実は、ポルソン氏は2015年4月に出版した著書『Dealing with China』の中で明らかにされている。
 
 それではなぜ、ポルソン氏は中国の指導者から絶大な信頼を得ているか? 一言でいえば、中国にとって、ポルソンは真の友である。
 
 1997年、ゴールドマン・サックス会長CEOを務めていたポルソン氏は、当時の朱鎔基首相代行の要望に応じ、中国国有企業の最大のIPO案件である中国電信(チャイナ・テレコム)の香港上場を協力し、42億ドルの資金調達に成功した。
 
 アジア通貨危機発生後、広東省政府傘下の大型国有企業・粤海集団公司は債務超過で経営破綻に陥った。同社の経営再建の陣頭指揮を執ったのは、当時の広東省筆頭副省長王岐山氏だった。1998年末、王副省長の要請に応え、ポルソン会長が率いるゴールドマン・サックスは粤海集団再建のファイナンス・アドバイザーを務めた。3年後、粤海集団は黒字転換を実現した。
 
 2003年春、中国では新型肺炎・SARSが発生すると、各国の首脳も企業経営者も観光客も一斉に中国訪問を控えている。SARS恐怖症が蔓延するなか、ポルソン会長は同年6月に北京を訪れ、SARS発生後に中国を訪問した最初の外国大手企業トップとなった。ポルソン会長の勇気ある行動は、当時SARS撲滅の陣頭指揮を執っていた王岐山・北京市長への側面支援とも読み取られる。
 
 2006年、ブッシュ政権の財務長官に就任すると、ポルソン氏は米中経済戦略対話という枠組みを提案し、米中間の経済紛争解決メカニズムを確立させた。同年、財務長官就任後の最初の外遊先に中国浙江省都の杭州市を選び、最初に会見した中国の指導者は当時の浙江省書記を務める習近平氏だった。また、習氏の斡旋で胡錦濤国家主席(当時)との会談も実現できた。
 
 財務長官退任後も、ポルソン氏は「ポルソン基金会」を設立し、米中の間に奔走し中国関連の活動に情熱を燃やし続けている。
 
 要するに、ポルソン氏は中国にとって「艱難之交」(艱難にあって、はじめて真の友を知る)の友人であり、信頼できる人間だ。ポルソン氏に対し、習近平主席の盟友である王岐山氏は次のように評価している。
 
 「中国において、貴方は永遠に歓迎され、貴方の意見も永遠に重視されるだろう。貴方はいかに事業を成し遂げるかを分かっているからだ」。
 
 雄安新区設立の経緯やポルソン氏と中国指導者との付き合いなどを見れば、米中関係の密度は日本人の想像を超えるほど高いことが分かるだろう。

 

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