今年後半に入ってから、中国経済の回復は一層鮮明になってきた。これは4つの「予想外」に裏付けられている。
◆4~6月経済成長率3.2% 主要国の中で唯一プラス成長
1つ目の「予想外」は今年4~6月の中国GDP成長率はエコノミストたちの平均予測値1.1%を大幅に上回り、前年同期に比べ3.2%に達した。なお、前期比では11.5%にのぼる。1~3月期の▼6.8%から急速に景気が回復された(図1を参照)。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
コロナ禍の影響で世界経済は大恐慌以来の景気収縮に陥り、日米欧主要国が軒並に大幅なマイナス成長を記録したなか、中国は一番先にプラス成長を実現した国となった。
次頁図2に示すように、今年4~6月のGDP成長率は前年同期に比べ、年率換算で、日本▼27.8%、米国▼32.9%、ドイツ▼34.7%、イタリア▼41%、フランス▼44.8%、イギリス▼59.8%と、いずれも大恐慌以来の最悪水準を記録した。3.2%成長を実現した中国経済は、主要国の中でいかに突出する存在であることがわかる。
出所)各国の発表により筆者が作成。
◆米国は依然として中国の最大輸出先
2つ目の「予想外」は、米中貿易戦争が2年以上経った今、米国が依然として中国の最大輸出先である。
中国税関の発表によれば、今年7月、中国の輸出は人民元ベースで前年同期に比べ10.4%増にのぼり、4ヵ月連続でプラス成長を保っている。そのうち、対米輸出はドルベースで前年同月比11.1%増の437.3億㌦、輸入は3.6%増の112.7億㌦となっている(図3)。7月の対米貿易黒字も16.1%増の324.6億㌦にのぼり、同月中国黒字全体の52%を占める。この金額は2018年11月に記録した過去最高の355億㌦に迫る。
出所)中国税関の発表により筆者が作成。
中国輸出全体に占めるシェアは、米国18.4%、EU15.6%、ASEAN14.6%、日本5%の順で、米国は依然として中国の最大輸出先である(図4を参照)。
トランプ大統領は度々対中貿易戦争の成果をアピールしているが、中国税関の貿易データを見る限り、その成果が疑われざるを得ない。
出所)中国税関統計により筆者が作成。
◆直接投資は意外に堅調 工業企業利益も14カ月ぶりに2桁増
3つ目の「予想外」は外国からの直接投資は意外に堅調だ。トランプ政権は米中分断を図り、米国企業の中国撤退を呼び掛けている。安倍政権もトランプ政権に呼応し、安全保障にかかわる分野の生産拠点を中国から国内回帰か東南アジアに移転させる方針を示している。
しかし、現実的には海外から中国への直接投資は減ってない。図5に示すように、今年7月、人民元実行ベースの外国直接投資は前年同期比15.8%増、4月から4ヵ月連続で増え続けている。実に予想外の展開となっている。
出所)中国商務省の発表により筆者が作成。
4つ目の「予想外」は工業企業利益の急増だ。国家統計局の発表によれば、コロナ禍の影響にもかかわらず、今年6月工業企業の利益が前年同月比で11.5%にのぼり、14カ月ぶりに2桁増益を達成している(図6)。企業利益の大幅増加は国の税収増に繋がり、財政収支の改善に貢献している。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
◆新規雇用創出は最大の課題
消費、投資、輸出は経済成長の三大要素と言われる。今年7月時点で輸出も投資もプラス成長を実現したが、消費は今一で依然とマイナス圏で推移している(図7)。いかに消費を刺激し、内需を振興するかが大きな課題となっている。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
中国経済の最大の課題は言うまでも雇用創出である。国家統計局の発表によれば、コロナ禍の影響で今年1~7月の新規雇用者数は671万人、昨年同期に比べ増加数は196万人が減少している。都市部登録失業率は5.7%だが、出稼ぎ労働者の農民工は失業率の統計に反映されていない。実際の失業率は多分10%前後にのぼると思われる。2020年に新たに874万人の大学生が卒業する。新規雇用をどう創出し社会安定を保つかが中国政府を悩ませる難題となっている。