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第35話 習近平体制の外交政策は「対米協調、対日強硬」か?

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 11月に開催される中国党大会では、突発的な事件がなければ、国家副主席の習近平氏は党総書記に選出され、10年ぶりに体制交代が実現される。習近平新体制はいったいどんな内政外交政策を打ち出すだろうか。本稿は習近平氏の個人経歴及び彼を絡む内外環境から、新体制の政策指向を分析する。
 
 現国家主席胡錦濤氏は庶民出身のリーダーであり、就任前に党内の支持基盤が弱かった。この弱さを補うため、胡氏は就任早々、「和」を特徴とする内政外交政策を打ち出した。党内では「上海閥」、「太子党」、「団派」など各政治勢力の均衡を保つ「融和」政策を打ち出し、国内では人間同士の調和、人間と自然(環境)の調和など「調和のとれた社会の構築」を唱え、国際的には「平和的台頭」を目指す。この10年間、胡錦濤体制は「和」を内政外交政策の基軸にし、政権運営を効果的に行ってきた。
 
 習近平氏は元副首相の父親を持つ「太子党」であり、豊富な党内人脈を持つ一方、前回に述べた「秘密選挙」の民意という党内の幅広い支持も得ている。そのため、習近平氏は前任者より強い政策指向を打ち出す可能性が高い。
 
 習近平新体制の内政外交政策の全貌はまだわからないが、習氏の経歴から次の3点が新体制の政策の特徴となることが予想される。
 
 まず1つ目は毛沢東の「文革」路線を歩まないこと。習近平本人も父も文化大革命の被害者である。彼の父、習仲勛元副首相は1960年代に冤罪で失脚し、北京西郊外の「西宮所」で2年以上軟禁された。今年5月、筆者は習仲勛氏の軟禁場所「西宮所」を訪問した。習近平氏の少年時代は正に父の軟禁場所で過ごしたのである。「文革」開始後、父は「反党反革命分子」と断罪され、1977年名誉回復まで刑務所生活が送られた。当時、15歳の中学生である習氏も文革の被害を逃れず、北京から陝西省の貧しい村に下放され、69~75年の6年間にわたって過酷な肉体労働を強いられた。親子2代の辛い経験から、習近平氏は人権蹂躙、教育荒廃、モラル喪失、政治混乱、経済崩壊をもたらした毛沢東の文革路線への回帰はまずないと思う。
 
 第二に、改革・開放政策の続行である。習近平氏の父・習仲勛は名誉回復後、広東省書記に任命され、中国で最も先に鄧小平の改革・開放路線を実践する。深?、汕頭、珠海など経済特区の設立にあたって習仲勛氏が陣頭指揮をとる。一方、習近平氏は河北省正定県書記、福建省長、浙江省書記、上海市書記を歴任したが、いずれも沿海地域で改革・開放政策を積極的に推進し、実績を積み重ねてきたのである。親子2代とも改革・開放政策の実践者であり、習近平氏が党総書記に就任すれば、改革・開放の継続には疑いがない。ただし、格差問題や腐敗蔓延という改革・開放の歪みについては、積極的に是正するだろう。
 
 第三に、習近平体制の外交政策は対米協調を基軸とする。アメリカは習近平氏にとって最も訪問回数が多い国であり、これまで5回も訪問した。1回目は1985年河北省正定県書記在任中のことであり、米アイオワ州を訪問し普通の米国人家庭にホームステーもした。2回目と3回目は福建省福州市書記在任中、4回目は浙江省書記在任中、5回目は今年2月国家副主席在任中のことである。習氏の娘・習明沢は今もハーバード大学に留学している。訪問を通じ、アメリカの社会、政治、経済、産業、文化などは習近平氏に強烈なイメージを与えた。習氏はオバマ大統領、バイデン副大統領をはじめアメリカ政財界の幅広い人脈を持っており、「親米派」とも言われている。従って、習近平新体制は「対米協調」を基軸とする外交政策を実行することが予想される。
 
 実は、「対米協調」は鄧小平氏が唱える中国の国策でもある。筆者が中国社会科学院大学院修士課程在学中の1979年に、鄧氏はアメリカを訪問し、米中国交樹立を実現させた。帰国の飛行機の中で、同行した中国社会科学院副院長李慎之は鄧氏に、「なぜ我々は米中関係を重視しなければならないか」と質問した。
 
 鄧氏は答えた。「過去数十年間、アメリカと良い関係を保つ国は皆豊かになった」と、極めて明快で現実主義のものだった。換言すれば、中国は豊かになるためには、アメリカとの良好な関係の確立が不可欠だと鄧小平氏が判断したのである。鄧氏の発言は米中関係の原点であり、中国の急速な台頭を遂げた外的要因でもある。「親米派」の習近平氏がこの国策を変えることはあり得ない。
 
 一方、日本に対し、習氏は2009年の訪問一回のみ。しかも日本国内の政争に巻き込まれ、天皇陛下との会見は「1ヵ月ルール」を破った「特例会見」と大きく報道された。実は、数年前、タイ衆議院議長も1ヵ月を切って天皇陛下との会見を申請し実現したが、宮内庁は何も文句を言わなかった。なぜ中国次期トップの習近平氏の天皇陛下との会見だけを問題視するか。習氏は納得に行かない。マスコミの大騒ぎによって、この訪問に水を差された習氏の日本イメージは決して良くない。これは習近平体制の対日政策にも影響を与えることが心配される。
 
 さらに、習近平氏が胡錦濤氏からバトンを受ける直前、野田政権は尖閣(中国名:釣魚島)の国有化を決定した。「釣魚島が中国の固有領土」と主張する中国政府にとって、野田政権の決定は中国主権への公然侵害のみならず、党大会を控えた中国の政権交代を撹乱しようとする「卑劣な内政干渉」とも受け止められた。習氏も激怒したのは想像に難しくない。米パネッタ国防長官と会談する際、習氏は野田政権の決定を「茶番劇」と強く批判し、対決姿勢を鮮明に打ち出した。習近平体制は誕生すれば、暫くは対日強硬姿勢が続くと見られる。
 
 野田政権の下では日中関係の改善が望めないが、政権が変われば期待できる。2006年10月の安倍晋三元首相の訪中は記憶に新しい例である。「タカ派」と見られる安倍氏は首相になると、最初の外遊先に中国を選び、当時小泉首相の靖国参拝問題でぎくしゃくした日中関係を一気に改善し、「破氷の旅」と評された。
 
 実はいま、安倍氏サイドと中国サイドの間に、関係改善に向けて水面下で動いているようである。自民党総裁に再登板を果たした安倍氏は、就任早々、中国に太いパイプを持ち、日中議員連盟会長を務める高村正彦氏を副総裁に抜擢した。これは政権奪回に備え、日中関係改善に向ける安倍総裁の人事布陣と見られる。一方、中国も素早く反応した。9月27日、この高村氏は中国を訪問した際、会談した唐家旋・前国務委員が安倍晋三総裁について、「右翼とも、タカ派とも思っていない」と述べ、エールを送ったことを明らかにした。
 
 われわれは、日中間の緊張関係は暫く続く覚悟をする一方、双方の政権交代後、一気に修復する機運が高まることも見落としてはいけない。

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