にくの匠 三芳(みよし)
(京都)
最近、紹介して喜ばれる店が京都の祇園にある。
京都というと伝統の和食を想像する人がいるかもしれない。しかし、その店の業態を簡潔に言えば『肉割烹』だ。肉業界にあって京都祇園は、肉割烹という特殊な業態が存在することも有名だ。今日は、その中でも最近、注目されている『三芳』を紹介しよう。
この店を知ったのは、
以前紹介した万両の大将と『カハラ』でとある女性と臨席したご縁から始まる。その女性はかなりの食通で、その口調は「焼肉屋なのに『三芳』行ったことがないのはもぐりだ」というニュアンスすらあった。早速、万両の大将と翌月の予約を入れた。
『三芳』はバーテンダーをしていたオーナーが祇園にある自宅を改装してスタートした。現在のスタイルになるまで、いろいろあったようだ。この店のオーナーの良さは、我々のように“肉業界”にどっぷりつかった人間では考えられない斬新さにある。その斬新さは決して奇をてらうことなく、しかし、「そうかこういう方法もあったなぁ」と気づきを与えるものだ。そして、肉の可能性を様々な形で再確認させてくれることだろう。
店に入ると、料理屋らしい雰囲気が漂うカウンターがあり、その印象がとても強く、テーブル席があったことを忘れるくらいだ。そして、バーテンダー出身のオーナーらしく、手元の動きが美しく、そして、お客様との間も絶妙だ。
まず一品目は体をあたためてからと、食感を残した白菜のスープからスタートだ。とても優しく、この後、肉料理がたくさん出るようには思えない。スープをすすっていると、大きな昆布にのったタンをおもむろに取り出し、包丁を入れ始める。否が応にもまな板の上を見入ってしまう。思わず写真を撮ってもいいか尋ねた。
手元に名物の“近江牛のタンの昆布〆”が運ばれてきた。細かく刻んだ塩昆布が添えられています。多くの食通を唸らせているこのタンの感動は忘れられない。「熟成させず、新鮮な近江牛のタンを昆布〆にしています」とオーナー。
タンに合わせて、静岡“初亀酒造” SUPERIOR大吟醸游月(ゆうづき)が提供される。
低温熟成酒の中汲み大吟醸を21ヵ月氷温貯蔵清酒鑑評会出品用酒として丁寧に丹精込めて小仕込みで熟成させている。ちなみに、四合瓶で一本16,800円につき、したがって半合で4,000円だった。まあ、そう考えれば安いが…しかし、この酒の凝縮感はすごかった。少し口に含んだだけでボワーンとくる。
薄切りにした近江牛雌牛のサーロインに続いて、今月の蒸し物――聖護院蕪蒸しと続く。中には軽く焼いた自家製の餅の中に牛の角煮が潜んでいて、これがうまい。手が込んでいるのは、二種類の蕪を使っていることだ。
この蒸し物には、静岡の“正雪”土瓶囲い 純米大吟醸を合わせてくれた。マスカットの香り、私の印象はメロンの香りだ。
凌ぎは九条ネギの稲庭うどんだ。九条ネギの食感がいい。上には“(脂)カス”、すなわち、ホルモンがのっている。柚子釜に入った、近江牛内もも、あんぽ柿、白和えが続く。くるみのアクセントだ。
今月の焼き物は、テールの西京焼きだ。下仁田ネギに生の胡椒を添えてある。
そして、クライマックスに向かう。まず、近江牛サーロインのしゃぶしゃぶだ。続いて、ステーキで、信州牛のシャトーブリアン。
しゃぶしゃぶとステーキが一緒に食べられるのもこの『三芳』の良さだ。ステーキのお酒には、スモーキーさが合うと言うことでサントリーの白州のソーダ割りが供せられた。デザートは白州つながりで、白州をかけた抹茶のアイスだ。
お会計をしたふたりの印象は「安かった」。そして、「これはいい店を教えてもらった」だ。
牛を一通り楽しめるのに、今までの京都にありがちの肉割烹の「もう、しばらく牛はいい」という後味はない。また、来月も来たいという印象だ。メニューも月替わりであり、上質で繊細な印象。その秘密は、多用されている汁物(料理の汁気)にあるように思う。だしでお腹いっぱいになるが、変な満腹感がない。これがこの店の秘密なのかもしれない。
今や人気の『三芳』少人数なら21時以降は狙い目だそうだ。東京のジェームズ大久保の紹介と言ってみて欲しい。スペシャルという裏メニューがある。
にくの匠 三芳
京都府京都市東山区祇園町南側570-15
電話 075-561-2508
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