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逆転の発想(6) 不利を有利に変える(チャーチル、毛沢東)

指導者たる者かくあるべし

 積極的防御に打って出る
 ドイツ軍の英本土上陸を阻止したバトル・オブ・ブリテンの戦いは、英国にとってまさに国家存亡を賭けた戦いだった。欧州で国家としてヒットラーの侵攻に抵抗しているのは英国のみの状況で、ドイツ軍を退けることが、世界大戦への介入をためらう米国に参戦と武器支援を促すことにもつながる。
 
 そのことを意識する英首相のチャーチルは、ドイツ空軍の猛攻が始まる直前、秘書官に語っている。
 
 「もはや私にできることは、ヒトラーにイギリスを攻撃させ、その戦いで彼が世界制覇の野望に向けて増強してきたドイツ空軍を叩きつぶすことだ」
 
 チャーチルの大局観では、この戦いは単なる悲壮な覚悟での防衛戦ではなかった。敵を自らの土俵に引きずり込み、その自信の根源を打ち破る積極的攻撃のチャンスとの認識だった。「防御は消極的なもの」という常識を逆転させた「積極的防御」の発想である。
 
 敵の攻撃的優位を消す
 戦いにおいては、つねに攻撃側が圧倒的優位にある。いつどこを攻めるのかは、攻撃側が主導権を握る。その敵の優位を消すためにチャーチルが採用したのが、開発途上のレーダーを世界に先駆けて実戦配備することだった。
 
 さらに、英独間で数的にほぼ互角だった戦闘機の数と能力をできる限り温存することに努めた。無駄な空中戦を避け、大陸から飛来するドイツ機の航続距離の弱点を突き、のらりくらりと時間を稼ぐ戦術も採用した。操縦席の後部の鋼板を強化し、パイロットの消耗も防いだ。すべて綿密に計算され、「撃ちてし止まん」的な安易な精神論は捨てた。
 
 同じ時期に、戦力的不利を抱えながら国民党軍、日本軍との二正面作戦を強いられた軍事の天才、中国共産党の毛沢東も、攻撃と防御を固定的に考えない独創的な戦い方を追求している。
 
 毛沢東語録によれば、「軍事的行動原則は、できるだけ自己の力を保存し、敵の力を消滅すること」と基本原則を強調した上で、数的に圧倒的な蒋介石の国民党軍に勝利する原則を十項目上げている。そのうち毛沢東的「逆転の発想」を3項目上げよう。
 
 ①  〈敵兵員の殲滅を主要目標とし、都市と地域の保持・奪取は主要目標とはしない。(地域の保持と奪取は)敵殲滅の結果である〉
 
 ②  〈準備のない戦闘、勝算のない戦闘はしない。どの戦闘でも準備を整え、敵味方の条件を比較して勝算をつかむようにする〉
 
 この原則に基づき毛沢東はできる限り正規戦を避けて、敵の弱点を陽動的に攻撃する遊撃戦を多用した。
 
 そして圧倒的に不利な兵力の補充については、こういう。
 
 ③  〈鹵獲(ろかく)した敵の全武器と捕虜にした敵兵の大部分をもって補充する。人力・物力の供給源は前線にある〉
 
 この三原則によれば、彼にとり「殲滅戦」とは、戦闘後に恨みを残す殺戮戦ではなく、降参させて味方を増やすことになる。占領地域の保全に拘らず、不利な場合は戦略的に撤退し、有利な状況に相手を引き込み包囲する。こうした戦い方は、「逃走主義」と批判する中国共産党中央の戦略と対立することとなった。
 
 
 敵を深く引き入れて叩く
 1930年代、中国共産党は江西省の井崗山(せいこうざん)地区を拠点にして、ソビエト地区を拡大していた。攻めれば地域を放棄して、追えばまた現れる毛沢東指揮の紅軍に業を煮やした蒋介石は圧倒的な軍事力でソビエト地区の攻撃を開始した。共産党中央は、毛沢東の遊撃戦方式を批判し、毛から軍事指揮権をとりあげ、農民頼りで無理な正面戦を挑む戦略をとった。
 
 蒋介石軍の攻撃が手ぬるいうちはなんとか持ち堪えたが、兵器、兵力の差は著しい。1934年からは増強した蒋介石軍は、じりじりと紅軍を追いつめる。「確保した農民の土地から一歩たりとも退いてはいけない」という硬直した指導部に指導された紅軍は撃破され、70県を数えたソビエト地区は壊滅した。
 
 そして紅軍の指揮権は再び毛沢東の手に委ねられ、苦難の長征を経て軍を立て直し、1949年、蒋介石軍を台湾に追い落として勝利する。
 
 〈敵を深く引き入れ、包囲して叩く〉という、毛沢東の逆転の戦略は、毛沢東軍事理論の代名詞となったのである。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
『戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』野中郁次郎ら共著 日経ビジネス人文庫
『チャーチル』河合秀和著 中公新書
『毛沢東語録』竹内実訳 平凡社ライブラリー

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