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採用・法律

第91回 『株主総会の決議の省略』

中小企業の新たな法律リスク

 スーパーマーケットを経営する伊藤社長が、賛多弁護士のところへ法律相談に訪れました。

***

 伊藤社長:お久しぶりです。急なご相談となってしまい恐縮なのですが、この度、弊社の本店所在地を変更することになりました。できるだけ早く本店所在地を変更したいのですが、知り合いの司法書士に登記をお願いしたところ、今回は定款の変更が必要になると伺いました。急いで定款を変更したいのですが、取締役会の決議のみで変更してよろしいでしょうか。

 

 賛多弁護士:いいえ。定款の変更には、株主総会の特別決議が必要となります。
御社の定款に「当会社は、本店を東京都千代田区に置く。」との規定がございますが、今回は、東京都千代田区以外の場所に移転するということでしょうか。

 

伊藤社長:はい。

 

賛多弁護士:承知いたしました。それでは、株主総会を開催して定款を変更する必要がございます。まずは、株主総会を招集するにあたり、一定の事項を定める必要があります。例えば、「株主総会の日時および場所」、「株主総会の目的である事項があるときは、当該事項」などです(詳しくは、会社法298条1項をご参照ください。)。御社は、取締役会設置会社ですので、取締役会の決議によってこれらの事項を決定する必要がございます。

 

伊藤社長:取締役には事情を説明しており、招集手続を経ることなく取締役会を開催することについての同意を得ることはできそうですので、早急に取締役会を開催します。

 

賛多弁護士:承知いたしました。次に、株主に対して通知をしなければなりません。御社は、非公開会社ですよね。

 

伊藤社長:はい。定款には「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない。」との記載もあります。

 

賛多弁護士:分かりました。御社は非公開会社かつ取締役会設置会社ですので、株主総会の日の1週間前までに、株主に対して書面で通知を発しなければなりません。

 

伊藤社長:1週間も必要なのですね。急いで株主総会を開催することが今までなかったので、あまり意識していませんでした。より早く行う方法はないのでしょうか。

 

賛多弁護士:取締役が定款変更の議案について提案し、株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます。この方法によれば、株主総会の決議を省略して決議を成立させることができます。株主全員の書面又は電磁的記録による同意を得ることは可能でしょうか。

 

伊藤社長:弊社の株主は3人だけで近所に住んでいる古いなじみなので、協力していただけると思います。その方法によるときには、どのような書面が必要になるのでしょうか。

 

賛多弁護士:伊藤社長の提案と株主の同意の意思が表示された書面を作成いたします。3名の株主は近所に住んでおられて書面のやり取りを円滑に行うことができそうですので、持回り決議の方法にしましょう。この他に、株主総会議事録を作成する必要がございます。

 

伊藤社長:分かりました。株主に対しては個別に連絡をします。また、提案及び同意についての書面と、株主総会議事録の作成をお願いできますでしょうか。

 

賛多弁護士:承知いたしました。上記の提案を行うことについては取締役会の決定が必要ですので、取締役会は予定通り開催してください。また、移転の時期及び場所についても、取締役会において決定することが必要です。

 

伊藤社長:分かりました。

***

 書面等による株主総会の決議の省略は、株主の数が少ない株式会社など、総株主の同意を得ることが容易な株式会社において、株主総会を実施している時間的余裕がないときや招集手続に係る費用等を抑えたいときなどに活用できます。


 なお、総株主の同意が示されている書面または電磁的記録についても、株主総会決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置かなければなりません。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小杉太一

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