田中社長: 今日はお時間をいただき、ありがとうございます。実は、最近よく耳にする「ダイバーシティ経営」について、少し教えていただきたいんです。弊社では女性や高齢者を採用してはいるんですが、正直なところ「人手不足を埋めるため」に雇っているだけなので、本当に会社にメリットがあるのかよくわからなくて…。
賛多弁護士: 確かに、中小企業では人手不足対策として「女性や高齢者を採用する」という例は多いですよね。ただ、ダイバーシティには労働力を補う以上の効果があります。例えば、視点が増えることで新しいアイデアが生まれやすくなったり、組織全体の活性化につながったりするんです。
田中社長: 新しいアイデアですか。たしかに、消費者のニーズも多様化していますね。でも、うちは製造業で、若手からベテランまで流れ作業をこなしてもらえればいいと思っているんです。そこにイノベーションが必要なのか、今ひとつピンときません。
賛多弁護士: 今は市場環境が変化しやすい時代です。長年続けてきたやり方だけでは対応しきれない場面も、これから増えるかもしれません。たとえば社内に異なる年齢や性別の人が増えると、これまで気づかなかったような視点やニーズを社内で吸い上げやすくなります。そこから新製品やサービス改善が生まれる可能性もあるんですよ。
田中社長: なるほど…。でも「女性だから気配りがある」「高齢者だから技術継承できる」といった話はわかりますが、それ以上に大きなメリットがあるんでしょうか。現場では「女性に特別配慮する」「高齢者に合わせた勤務体制をつくる」など、やっぱり負担も増えるイメージなんですよね。
賛多弁護士: そこが意識改革の大きなポイントなんです。「特別な配慮が必要だ」というよりも、「いろんな人が働きやすくなる工夫をすると、結果的に生産性が上がる」という考え方に切り替えるようにしてください。たとえば高齢者が働きやすい設備やペースを整えると、それは若手の時短勤務や子育て中の従業員にも役立つケースが多いんです。最初に多少手間がかかっても、長期的には組織全体が助け合いやすくなり、定着率やモチベーションアップにつながります。
田中社長: そうは言っても、中小企業だと余裕がなくて、そこまで大がかりな対策は難しいですよ。大手企業みたいにいろいろ取り組んでいるところはありますが、うちの規模でできることがどれくらいあるのか……。
賛多弁護士: 大規模な改革を一気にやる必要はありません。まずは少人数のチームや部署で試験的に取り組んではいかがですか。ちょっとした働きやすい環境づくりを試し、そこから得られた成果や課題を全社に広げるんです。小回りがきくのは中小企業ならではの強みでもあります。
田中社長: 確かに、部署単位なら始めやすいですね。ところで、助成金とかを使えば費用面の負担が減るとも聞くんですが、実際のところはどうなんでしょう?
賛多弁護士: 国や自治体が用意している助成金はあります。たとえば、女性や高齢者、または外国人や障がい者の雇用促進を支援する制度など。こうした仕組みを活用すれば、研修費や職場環境の整備費用の一部を補助してもらえます。
田中社長: なるほど。申請が面倒そうだというイメージがあったんですけど、調べてみる価値はありますね。
賛多弁護士: 書類作成は多少手間ですが、一度整理すると次回以降も使えますし、専門家や支援機関を頼れば負担もかなり軽くなります。それに「助成金を得てダイバーシティを進めています」と言えると、社外的にもイメージアップになりやすいですよ。
田中社長: うちの企業イメージを高めるきっかけになるなら魅力的ですね。ただ、社内には「女性や高齢者を雇うのはいいが、自分たちの仕事が増えるんじゃないか」と懸念する人もいると思います。意識改革はどう進めればいいんでしょうか?
賛多弁護士: まずは社長自身が「ダイバーシティは会社の成長戦略だ」という姿勢を示すことです。トップが本気で取り組む意志を見せると、「あ、これは本当に大事な方針なんだな」と社員に伝わります。それから、社員向け研修を実施して「いろんな人が働きやすい職場ができると、会社全体が伸びるんだ」という理解を深めると、現場の抵抗も減っていきます。
田中社長: なるほど…。でも、どんな内容にすれば社員に響くんでしょうか?
賛多弁護士: ダイバーシティの専門家を招いて話を聞くのもいいですし、自社に合った事例をピックアップして「こういう企業が取り組んで成功している」と具体的に示すのも効果的です。社員が「自分たちでもできそうだ」と思えれば、一気にモチベーションが上がります。
田中社長: 確かに成功事例を知るとイメージしやすくなりますね。実際にイノベーションを起こした会社の話などを聞けば、「ただ雇うだけ」ではなくて、積極的に活用すればプラスの面が多いとわかりそうです。
賛多弁護士: そうなんです。様々な従業員の持ついろいろな強みを活かすと「今まで思いつかなかったヒット商品ができた」「売り込み方を変えたら新規顧客が増えた」という例は実際にあります。小さな取り組みからでも意外と変化が起こりますよ。
田中社長: そこはちょっと興味がありますね。中小企業でも、うまくマッチすれば予想外のアイデアが生まれるかもしれない。
賛多弁護士: ええ。しかも中小企業は意思決定のスピードが速いので、斬新なアイデアでも実施しやすいんです。大企業と比べて社内調整に時間がかからない分、変化に対応しやすい。これは大きなアドバンテージですよ。
田中社長: 人材の定着率が上がる可能性もあるなら、ますます興味が湧いてきました。実際、若手がすぐ辞めてしまうのが悩みでして…。もしダイバーシティ経営で働きやすい環境を作れるなら、離職率も下げられるかもしれませんね。
賛多弁護士: そうですね。自分を大切にしてくれる会社だと感じれば、社員のエンゲージメントも自然と高まるものです。結果的に戦力が社内に残り、新しい挑戦を続けられる好循環が生まれます。もちろん最初は少し手間もかかるかもしれませんが、長い目で見ればメリットは大きいと思いますよ。
田中社長: ぜひ実現したいですね。わかりました。まずは助成金の情報収集と、社内研修の企画から始めてみることにします。研修でダイバーシティの意義をしっかり伝えて、少人数でも試行しながら広げていく作戦でいこうかなと思います。
賛多弁護士: 良いスタートだと思います。うまくいけば、御社の強みをさらに引き出す素晴らしい機会になりますよ。より具体的な進め方はまたお話ししましょう。
ダイバーシティ経営の一番の利点は、多様な価値観を取り入れて新たな発想やイノベーションを生むことです。性別や年齢など異なる背景の人材が自由に意見を言いやすい環境を整えると、社員は「自分の強みを活かせる」と感じ、積極的にアイデアを出していくようになります。結果的に人材不足を補うだけでなく、商品やサービスの改善、新規顧客の獲得などにも結びつきやすくなり、生産性の向上や離職率の低下につながります。
執筆:鳥飼総合法律事務所弁護士町田覚