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採用・法律

第123回 短時間労働者への被用者保険の適用がさらに拡大されます

中小企業の新たな法律リスク

賛多弁護士は、顧問先社長の高崎社長から、従業員総出のお花見に誘われました。高崎社長は、従業員を多く抱えることに誇らしげな一方、心配ごともあるようです。

* * *

高崎社長:今年の桜は開花が幾分遅かったので、新入社員も交えた花見を開催できました。おかげ様で我が社の従業員も50人を超えてきました。

 

賛多弁護士:もう50人ですか!社長さすがです。それに、自由参加の花見にこれだけ従業員のみなさんが集まるのも、社長のお人柄ですよね。

 

高崎社長:嬉しさ半面、実のところ、花見の費用は、全て私のポケットマネーなので冷や汗をかいています。そういえば、数年前の法律の改正で、厚生年金や健康保険の被用者保険の対象が拡大されて、我が社もその対象になってしまうんじゃないかって心配していました。もしそうなら、事業主である我が社の負担が増えることになってしまいますよね。

 

賛多弁護士:そのとおりです。短時間労働者に対しても健康保険や厚生年金保険の適用を拡大するために、令和2年に関係法令が改正され、今年10月からは、企業規模が50人超の企業まで適用されることになります。今回の改正法の施行により、事業主負担は全体で約1590億円増える見込みのようです。

 

高崎社長:やはりそうでしたか。対象拡大と聞くといい話に聞こえますが、事業主である会社の負担が増えるわけで、そもそもどうして被用者保険の対象を拡大する必要があるのですか。

 

賛多弁護士:これまで従業員の立場にありながら、国民年金や国民健康保険に加入していた人に厚生年金保険や健康保険を保障することによって、社会保険制度における取扱いによって働き方や雇用の選択を歪められないようにするためには必要な変化だということなのでしょう。

 

高崎社長:仕方のないことなのかもしれません。ところで、我が社の従業員も、50名を超えたので、今年の10月から新たな対応が必要になるということですか。

 

賛多弁護士:その可能性があります。50名超えの企業といっても、厳密にいえば、ⅰフルタイムの従業員と、ⅱ週労働時間が通常の労働者の3/4以上の短時間労働者の合計人数が50人を超えるかどうかで判断されます。

 

高崎社長:我が社には、パート勤務の者もいますから、現時点でその要件を満たしているかは少し確認する必要がありそうです。もし50人超えの企業に該当した場合、全てのパートさんも対象拡大を受けることになるのですか。

 

賛多弁護士:そうではありません。対象になるのは、次のいずれかの要件を満たす従業員です。

(1) 1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が、通常の従業員のそれの3/4以上(以下、「4分の3基準」といいます。)であること

(2) (4分の3基準を満たさない場合でも、)以下の4つの要件を満たすこと

① 1週の所定労働時間が20時間以上であること

② 所定内賃金が月額8.8万円(年収106万円相当)以上であること

③ 学生でないこと

④ 適用事業者に使用されていること

 

高崎社長: (1)の4分の3基準は、従前より聞いたことがあると思いますが、今年10月から新しく変わるのは、(2)の4要件を満たせば対象となるという点ですね。ちなみに、①の労働時間に残業時間は含まれますか?また、②の賃金にボーナスも含まれますか?

 

賛多弁護士:いずれも含まれません。①について、週20時間の判定は、契約上の所定労働時間によって行いますので、残業時間は含まれないことになります。また②について、ボーナスや臨時に支給される諸手当、割増賃金や通勤手当なども含まれません。なお、以前は勤務期間が1年以上の見込であることも要件とされていましたが、実務上の取扱いの現状も踏まえ撤廃されています。その結果フルタイム従業員と同様に、勤務期間要件が2カ月超えという要件が適用されることになります。

 

高崎社長:なるほど。2カ月超えの要件であれば多くの場合、満たすことになりそうですね。

 

賛多弁護士:そのとおりです。最初の雇用契約の2カ月以内であっても、就業規則や雇用契約書などに、更新される旨や更新される場合があるといった記載がある場合には、この要件を満たすことになります。そうすると適用除外となる場合は、契約期間が2カ月以内で、書面上更新可能性を示す記載がなく、更新の前例もない場合に限られていると言えるでしょう。

 

高崎社長:それでは、今年の10月以降、我が社が適用拡大の対象となるとした場合、どういった手続が必要になるのでしょう。

 

賛多弁護士:令和5年10月から令和6年8月までの各月のうち、厚生年金保険の被保険者である従業員の総数が6カ月以上50人を超えたことが確認できた場合には、日本年金機構において、当該会社を特定適用事業所に該当したものとして扱い、「特定適用事業所該当通知書」を送付することになりますので、会社側からかかる届出をすることは不要となります。一方で、被保険者資格取得届について、新たに被保険者資格を取得する短時間労働者がいる場合には、会社が、日本年金機構の事務センター(健康保険については、健康保険組合)に対して、その従業員についての当該届出をする必要があります。

 

高崎社長:わかりました。ちなみに、特定適用事業所に該当するか判明する前に、関係機関からお知らせが来ることはないのでしょうか。

 

賛多弁護士:あります。令和5年10月から令和6年7月までの各月のうち、厚生年金保険の被保険者の従業員総数が6カ月以上50人を超えたことが確認できる場合には、同年9月上旬に対象の適用事業所に対して、「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付されてきます。

 

高崎社長:事前にお知らせをもらえるのであれば、安心しました。あと一点教えてください。今年の10月以降、従業員で退職する予定の者が複数名いまして、この従業員らの退職によって、また取扱いが変わってきてしまうのでしょうか。

 

賛多弁護士:たとえ被保険者の総数が常時50人を超えなくなった場合でも、(被保険者の4分の3以上の同意を得るなどしない限り)引き続き特定適用事業所であるものとして取り扱われます。

 

高崎社長:なるほど、なかなか複雑ですから一度担当者としっかりと検討してみます。法律はよく変わってしまい、ついていくのが大変です。いやはや、お花見の最中なのに仕事の話をしてしまいました。折角の花見がもったいない。お酒や桜を楽しみましょう。

 

賛多弁護士:三日見ぬ間の桜、といいますものね。いただきましょう。

* * *

今年10月の改正法施行により、被用者保険の適用が拡大され、新たに適用となる人数は、65万人ともいわれて一定の影響が予想されます。

また、被用者である者には被用者保険を適用すべきという理念のもと、今後は企業規模要件も撤廃に向けた議論が加速する可能性もあります。

他方、「短時間労働者自身が希望しないから」という理由で適用しない方針の会社もありますが、これにより短時間労働者の待遇改善やこれによる定着も期待することもできるといえるでしょうから、しっかりと検討することが必要ではないでしょうか。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 塚越幹夫

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