- ホーム
- 中小企業の新たな法律リスク
- 第13回 『譲渡禁止特約が付いている債権を担保に出来るか?』
建設関係の会社を営む野田社長が、賛多弁護士のところに、融資を受ける際の担保について、相談にきました。
* * *
野田社長:弊社は社屋の小規模改修を考え、銀行に融資を申し込もうと思います。その際、担保として、取引先である栄光株式会社に対する現在、将来1年分の売掛金を譲渡することを考えています。栄光社とは長年継続的に取引をさせていただいており、毎月一定水準の売り上げがあります。
賛多弁護士:なるほど、担保とするため栄光社に対する債権を銀行に譲渡する、譲渡担保にするということですね。
野田社長:はい。ただ、栄光社との契約書を確認したところ、「甲及び乙は、・・・本契約に基づく権利または義務を第三者に譲渡してはならない。」とありました。そこで、このような条項がある場合でも売掛金債権を譲渡担保にできるのか、お聞きしたくて、連絡しました。
賛多弁護士:契約書を見せていただけますか。・・・確かに譲渡禁止特約が付いていますね。現行の民法では、譲渡禁止特約が付いている場合は、譲渡しても、原則、無効となります。
野田社長:そうなのですか。すると、譲渡担保にはできないということでしょうか。
賛多弁護士:その点ですが、来年2020年4月1日に、債権の譲渡禁止特約についての改正があり、債権の譲渡について整理等がなされました。
野田社長:どのような改正ですか。
賛多弁護士:譲渡禁止特約が付されていても、債権譲渡の効力は妨げられないことになります。
野田社長:無効にならないということですか。
賛多弁護士:預貯金債権以外はそうです。
野田社長:でも、弊社は契約違反ということで、栄光社に契約を解除されることはありませんか。
賛多弁護士:まだ、施行されているわけではないですが、施行されれば、譲渡担保特約が弁済の相手方を固定する目的でなされたときは、債権譲渡は必ずしも特約の趣旨に反しないとみることもできるので、特段の事情がない限り、そもそも契約違反にならないと解釈されるのではないかと考えられています。
野田社長:特約の趣旨に反しないというのは、どういうことですか。
賛多弁護士:その改正では、債務者、つまり栄光社は、譲受人が譲渡禁止につき知っていたか、知らなかったことにつき重過失がある場合は、譲渡人つまり御社に対する弁済等をもって譲受人に対抗することができるので、その場合は弁済の相手方を固定するという期待は保護されるという意味です。
野田社長:そうなんですね。でも、それでは、銀行が、譲渡禁止につき知っていたか、知らなかったことにつき重過失がある場合は、銀行が困るのではないでしょうか。
賛多弁護士:その点は、債務者が譲受人から履行の催告を受け、相当の期間内に履行をしないときは、債務者は、譲受人に対して履行をしなければならないことになったので、一応担保としての価値はあります。
野田社長:そうですか。よくわかりました。改修時期を延ばして、その改正以降にすることも検討してみたいと思います。
賛多弁護士:そうですね。来年4月以降であれば、実務の取り扱いの状況も、だんだんとわかってくると思います。
* * *
現行の民法は、譲渡制限特約は有効であり、ただ善意の第三者には対抗できないとされていたのに対し、2020年4月1日施行の改正民法では、債権譲渡は常に有効としたうえで(同法第466条第1項)、悪意又は重過失がある譲受人に対して履行を拒絶でき、かつ、譲渡人への弁済等の債務消滅事由をもって譲渡人に対抗できる(同条第3項)と改正されました。また、将来債権譲渡が譲渡できることについて、明文化されました(同法第466条の6第1項)。
本改正により、中小企業の資金調達の手段の1つとして債権の譲渡(譲渡担保)が活用されることが期待されています。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子