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- 第47回 『テレワークの時、秘密情報はどうするの?!』
アパレル業を営む安斉社長は、新型コロナウィルスに係る2回目の緊急事態宣言を受け、テレワークの導入に本腰を入れようと考え、顧問弁護士である賛多弁護士の事務所を訪問しました。
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安斉社長:先生、今月の緊急事態宣言を受け、いよいよ、弊社でもテレワークに本腰を入れようと思います。昨年の緊急事態宣言でも、一部テレワークを導入しましたが、特別な準備もなく、ただ行っただけとの感がありました。今般は、遅ればせながら、リスクなども踏まえ、しっかり対応していこうと考えて相談に参りました。
賛多弁護士:確かに、新型コロナウィルスが一段落しても、別の問題によりテレワークの必要性が出てくることは十分あり得ますし、そもそも、テレワークは選択肢の1つとして残っていくことは確かなのでしょうね。
安斉社長:そうですよね。テレワーク導入により、会社の内部で保管していた情報についても一部従業員が持ち帰ることになると思います。準備すべきことはたくさんあると思いますが、情報漏洩リスクについては、とても気になっています。
賛多弁護士:テレワーク導入にあたり、改めて、秘密情報の管理方法や諸規程を確認し、適宜、見直しに取り組むということが必要だと思います。
安斉社長:なるほど。まずは、現状を把握し、問題点を改善するということですね。具体的には、何をすればよいでしょうか。
賛多弁護士:御社には、「営業秘密取扱規程」や「情報取扱規程」などの情報に係る規程類がありましたよね。
安斉社長:はい。一応、あります。弊社の規程では、秘密情報の社外への持ち出しは一切禁止となっています。
賛多弁護士:規程があるのであれば、その情報に関する規程類が、テレワークに即した内容となっているか確認することが考えられます。情報に関する規程に盛り込んでおく方がよい条項としては、1.適用範囲、2.秘密情報の定義、3.秘密情報の分類、4.秘密情報の分類ごとの対策、5.管理責任者、6.秘密情報及びアクセス権の指定に関する責任、7.秘密保持義務、8.罰則が挙げられますが(秘密情報の保護ハンドブック(経済産業省))、まず、基本的な点として、「秘密として管理しようとする情報」がその規程上の「秘密情報」に含まれているかを確認しましょう。
そして、テレワークの実施にあたって、会社として、秘密情報とされる情報を社外へ持ち出すことを認めるということであれば、現在の御社の規程の「秘密情報の社外への持ち出しは一切禁止」という条項が形骸化してしまうことになります。そのため、通常勤務における情報の取り扱いに関する規定のほか、テレワークの実施時などにおいて、必要となる場合には、秘密情報を社外への持ち出すことを認め、その場合のルールを定めるのがよいでしょう。
安斉社長:確かに、テレワーク時の状況に対応できるルールは必要ですね。情報に関する規程の見直しをしたいと思います。
賛多弁護士:そうですね。そして、ルールを守ってもらうには、そのルールを従業員が認識していることが必要ですね。
安斉社長:今であれば、e-ラーニングなどの社内研修やメールなどで徹底するということになりますか。
賛多弁護士:そうですね。また、これは、テレワーク時に限ることではないですが、秘密情報等に関するルールがあり、それを従業員が知っていても、従業員が自己が扱う情報が秘密情報であるか否か判断できなくては、意味がありません。そこで、秘密情報にあたるということについて従業員の予見可能性を高めるため、秘密情報が含まれる媒体へ「(マル秘)」・「社内限り」・「極秘」など秘密情報であることが一目瞭然であるような表示をすること等が有用です。
安斉社長:これは、弊社でも取り組んでいます。
賛多弁護士:また、秘密情報は必要な者だけがアクセスできるようにアクセス者を制限することや、ID・パスワードの設定等を措置することも、秘密情報として管理するという視点で有益ですね。
安斉社長:弊社にも、これらはルールとしてはあるはずですが、どこまで徹底されているかについては少し不安です。やはり、研修などで周知徹底することが必要そうです。
賛多弁護士:そうですね。ルール作りと、その徹底をどのように図るかということだと思います。
安斉社長: 細かなルール作りについてさらに検討して、お話に出ていた方策をとっていきたいと思います。
賛多弁護士:それと、秘密情報として管理するということは、営業秘密などの漏洩の対策としても重要になってきます。
安斉社長:弊社としても、現在進めているプロジェクトの関係などから、企業秘密が第三者に漏洩するリスクについては危惧しています。
賛多弁護士:例えば、不正競争防止法では、営業秘密について、その不正な取得や使用等に対し、営業上の利益を侵害された者からの差止めや損害賠償請求等の民事的な救済のほか、刑事罰の規定があり、営業秘密の保護を図っています。
安斉社長:その保護されるような「営業秘密」というのはどのようなものをいうのですか。
賛多弁護士: この法律では、「秘密として管理されていること」、「有用な技術上又は営業上の情報であること」、「公然と知られていないこと」の3つの要件を満たすものをいいます。
これまでお話しした情報に関するルールの策定や従業員へのルールの周知、アクセス権者の制限、「社内限り」などの秘密であることの表示、ID・パスワードの設定を工夫して行うことにより、「秘密として管理されていること」という要件を満たす可能性がでてきます。いくら有用な情報であっても、この要件を満たさなければ、先ほどお話しした営業秘密の保護の対象にはならないので、この要件をみたすよう情報管理をする必要があります。
安斉社長: わかりました。対応したいと思います。
賛多弁護士:規程の修正や、ルール作り等お手伝いいたしますので、ご相談ください。
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テレワークは、情報通信技術を活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方として、認知されてきました。
本項では、テレワーク時の懸案事項の1つといえる情報管理の初歩的事項について触れましたが、テレワーク導入には、セキュリティをはじめ、労務管理や作業環境のチェックなど、重要な行うべきことが多数あります。テレワークについては、参考資料欄記載の秘密情報管理に関するの経済産業省のガイドラインのほか、厚生労働省、総務省のガイドラインなどがありますので、テレワーク導入等に際しては、これらも一読されることをお勧めします。
参考資料(経済産業省HPより)
・テレワーク時における 秘密情報管理のポイント (Q&A解説)
・営業秘密管理指針
・秘密情報の保護ハンドブック
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子