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採用・法律

第162回 カスハラ防止のため、カスハラ対策をとることが事業主の義務となります!

中小企業の新たな法律リスク

ペット用品の販売業を営む猫村社長は、社内の労働問題について相談するため、顧問弁護士である賛多弁護士の事務所を訪問しました。相談後、猫村社長は、カスタマーハラスメントについて法律が改正されたという話を耳にして気になっていたことから、賛多弁護士にどのような改正なのか、質問しました。

* * *

猫村社長:先生、先日、同業者の集まりで、カスハラ(カスタマーハラスメント)についての法改正が行われたと聞きました。私の会社でも、何か対応をしなければならないことがあるのでしょうか。

 

賛多弁護士:労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が改正され、今年(2025年)6月に公布されました。施行後は、カスタマーハラスメントを防止するために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業者の義務となります。

 

猫村社長: やはり何か対応しなければならなくなるということですね。事業者は、どのような措置を講じなければならないのでしょうか。

 

賛多弁護士:改正後の法律では、事業主は、①職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③当該労働者の就業環境が害されることのないよう、雇用管理上必要な措置を講じなければならなくなります。

 

猫村社長:ときどき、お客様から、商品についてのクレームを受け、返品や交換を求められることなどがあります。その場合、こちらとしては、店員が、丁寧にご説明して対応をするのですが、まれに、いつまでも店にとどまって声を荒げたり、店員等に向かって暴言を吐いたりされることがあります。

 

賛多弁護士:その例では、顧客の言動が、ペットグッズ販売の性質に照らし社会通念上許容される範囲を超えたものと言え、店員の就労環境が害されていると言えますね。このような顧客等の行為で就業環境が害されることがないように、それを防止する雇用管理上の措置を講じなければならないということです。

 

猫村社長:なんとなくはわかるのですが、就労環境が害されているというのは、どういうことでしょうか。

 

賛多弁護士:「労働者の就業環境が害される」というのは、労働者が、人格や尊厳を侵害する言動により身体的・精神的に苦痛を与えられ、修業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることと解されます。

 

猫村社長:わかりました。もう1つ、教えていただきたいのですが、どこまでの言動がカスハラの対象行為となるのでしょうか。

 

賛多弁護士:厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」など(注1)(注2)の記載が参考になるかと思います。そこには、顧客等の要求の内容の妥当性の有無・程度を考慮したうえで、そのクレーム、言動の手段・態様が「社会通念上不相当」か否かを総合的に勘案して判断すべきという旨の記載があります。

顧客等の要求の内容が著しく妥当性を欠く場合は、手段態様がどのようなものであっても、社会通念上不相当とされる可能性が高いと考えられるでしょうし、また、顧客等の要求の内容に妥当性がある場合であっても、手段・態様の悪質性が高い場合には、社会通念上不相当とされることがあると考えられるでしょう。

 

猫村社長:なるほど。

 

賛多弁護士:もう少し具体的に説明しますと、要求内容に妥当性がある場合でも、身体的な攻撃、威圧的な言動、差別的な言動などは、不相当とされる可能性が高く、要求内容に妥当性がない場合は、穏当な方法での金銭補償や商品交換の要求なども不相当とされる場合があるということになります。

 

猫村社長:カスハラに該当するか否かは、お客様等の要求内容に妥当性があるか、要求を実現する手段・態様が社会通念に照らして相当かということで判断していくということですね。

 

賛多弁護士:それも1つの判断の基準となると思います。業種や業態などの違いからカスハラの判断基準は企業によって異なると思いますので、事前に自社の判断基準を明確にする必要があると思います。

 

猫村社長:わかりました。判断基準について、弊社でも検討したいと思います。ほかには、会社として、何をすればよいのでしょうか。

 

賛多弁護士:先ほどご紹介した「カスタマーハラスメント対策マニュアル」などには、カスハラを想定した事前の準備として、①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、就業員への周知・啓発、②従業員のための相談対応体制の整備、③対応方法、手順の策定、④社内対応ルールの従業員等への教育・研修が挙げられています。また、カスハラが実際に起こった際の対応として、④事実関係の正確な確認と事案への対応、⑥授業員への配慮措置、⑦再発防止のための取り組み、⑧ここまで述べた措置と併せて講ずべき措置が挙げられています。

 

賛多弁護士:また、この件については、労働施策総合推進法において、厚生労働大臣が、事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な「指針」を定めることが規定されています。今後、その指針が公表されることになりますので、それも参照して対応することになるでしょう。

 

猫村社長:なんだか大変そうですね。いつまでに、対応をしなければならないのでしょうか。

 

賛多弁護士:本カスハラに係る改正法は、公布の日から1年6月を超えない範囲内において施行することになっています。公布日が本年(2025年)6月11日ですから、来年(2026年)中には施行されることになります。早めに、準備をするのがよいと思います。

 

猫村社長:わかりました。この件については、別途、ご相談させてください。

 

賛多弁護士:もちろんです。カスハラ対応をすることにより、職場環境がよくなり、まずは、貴社の従業員が働きやすくなりますし、その結果、人材確保が困難な中、離職者が減ることにつながる可能性も見込めるなど、様々なメリットがあると思いますので、しっかり取り組みましょう。

 

* * *

多様な労働者が活躍できる就業環境の整備を図るため、ハラスメント対策の強化することになり、労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の一部が改正されました。カスタマーハラスメントに係る改正法は、公布から1年6月を超えない範囲内において施行されることになっており、2026年12月11日までには、カスタマーハラスメントを防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けされます。

義務化前にカスタマーハラスメントに取り組んでいる企業においては、業務や従業員、そして職場環境についてよい効果が出ていることも報告されているところでもあり、この義務化を機会に、是非、積極的に対策をとって、よりよい職場にする施策の1つとされるとよいと思料いたします。

 

(注1)厚生労働省 「カスタマーハラスメント対策マニュアル」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

 

(注2)厚生労働省 「カスタマーハラスメント対策に取り組みましょう! 社員一人に抱え込ませずに、組織的な対応を」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000899376.pdf

 

【参考】

・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和七年法律第六十三号)

(公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日)

https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132/20261210_507AC0000000063

 

・厚生労働省 「概要」

https://www.mhlw.go.jp/content/001502748.pdf

 

・厚生労働省 「令和7年労働施策総合推進法の一部改正のポイント」

https://www.mhlw.go.jp/content/001502758.pdf

 

・厚生労働省 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充 実等に関する法律等の一部を改正する法律について」

https://www.mhlw.go.jp/content/001502757.pdf

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子

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