2013年(平成25年)、日本最大のイベントは何か?それは言うまでもなく、
伊勢神宮の「式年遷宮」(www.sengu.info/)である。
式年とは一定の年限のことで、「式年遷宮」とは、20年に一度、伊勢神宮の社殿を新造して宮を遷す行事である。
大化の改新を成し遂げた天智天皇(中大兄皇子)の弟の天武天皇により飛鳥時代に定められ、
690年、持統天皇の御代に第1回が行われた。
以来、戦国時代の一時の中断を除いて、1300年以上の長きにわたって連綿と受け継がれて来た祭りだ。
日本を代表するこの伝統行事が、2013年(平成25年)、第62回目の開催の時を迎える。
世界でも例のない驚異の伝統サイクルは日本文化の真骨頂であり、そこには永続する組織の智恵が凝縮されている。
◆日本国民の10人に1人が参加する"日本伝統博覧会"
古くから「お伊勢さん」の名前で親しまれて来た「伊勢神宮」は、正式には「神宮」と呼ばれ、
その名の通り、全国の神社の総元締め的役割を担う唯一至高の神社である。
近年、伊勢神宮への参拝客数は年間約50万人ずつ増加して来ており、
2009年(平成21年)は約800万人、2010年(平成22年)・2011年(平成23年)は約860万人を記録し、
日清戦争が終わった1895年(明治28年)の調査統計の開始以来、過去最高を更新した。
それまでで一番多かった年は1973年(昭和48)年の859万人で、同年、第60回「式年遷宮」が行われた。
遷宮の年以外で記録が更新されたのは初めてのことだ。
昨今の全国的なパワースポット人気も追い風となり、さらに参拝客が増えている。
第62回の「式年遷宮」が行われる2013年(平成25年)には、年間1000万人が詣でるとすれば、
日本国民のほぼ10人に1人が参拝することになる。
「式年遷宮」は"日本伝統博覧会"とも言える、まさに日本最大のイベントである。
◆気の遠くなる時間と労力を要する日本独自の希有な伝統
「式年遷宮」は、20年に一度とはいっても、実はこの年だけに行われる祭りではない。
2005年(平成17年)5月に行われた、新緑の森で材木となる木を伐り出す、"山の口に坐す神"に祈る
「山口祭」に始まり、
国民参加の「お木曳き行事」など30に及ぶ数々の様々な祭典・行事を積み重ねつつ、
2013年(平成25年)秋の「遷御の儀」の斎行に至る一連の祭りだ。
http://www.sengu.info/gyoji.html
20年ごとの遷宮のために、樹齢数百年以上のヒノキなど一万本を超える数の用材を伐り出し、
約10年の歳月をかけて、社殿を従来からある場所の隣の地にすべて新たに造営する。
また、525種類1085点にも上る、社殿の内外を装飾する装束や、
189種類491点もある神宝(調度類)に至るまで全部を新しく作り変えられる。
気の遠くなる時間と労力を要する日本独自の希有な伝統だ。
◆日本文化の真骨頂たる1300年続く驚異の伝統サイクル
「式年遷宮」は、なぜ20年に一度行われるのか?
その理由については諸説ある。
稲の貯蔵可能な期間が最長20年だからという説。
20年に一度、元旦と立春が重なる大陸渡来の暦の知識によるという説など。
しかし、1300年前の日本人の一生は50年より短く、
技術や信仰を伝承するにはそれが精一杯の年限だったとする説が一番説得力がある。
伝統工芸の優れた技術を守り伝えねばならないし、
数々の祭りの開催や新殿の造営、調度類の製作のために要する膨大な人的ネットワークも
維持しなければならないからだ。
すべてを作り変えるのは大変だが、それによって伝統工芸の優れた技術を守り伝えられるし、
建て替えで出る古材などでまだ使用できるものは各地の神社の改修などに再利用される。
リサイクルなどという概念が生まれるずっと以前から引き継がれて来た驚異の伝統サイクルだと言えよう。
中国、エジプト、ギリシャをはじめとする諸外国における堅固な石造りによって永続性を得ようとする
ハード中心の神殿とは明らかに異なる、ソフト中心、人間中心の「式年遷宮」は、まさに日本文化の真骨頂である。
◆「式年遷宮」に学ぶ永続する組織
この祭りには、毎年新たな稲穂が実るように、新しい木の命によって神々が生まれ変わり、
人々も神々から新たな力を頂く、そして建物も世代を継いで永遠の命を維持するようにという祈りが込められている。
組織が生き残るためには、常にオゴリとマンネリを排し、変化に即応して行かねばならない。
しかし、変化を先取りするとは言っても根無し草では流されてしまう。
根が浅いとどんなに大樹に育っても強風が吹けば倒れてしまう。
変化に立ち向かうためにこそ強く深い根を持たねばならない。
生命体において重要な遺伝子は頑なに変化しない。
組織の根本を成すDNAの伝承を考える時、定期的に皆で一緒に一つの事を行い続けることの大切さをはじめ、
「式年遷宮」は様々な示唆を与えてくれる。
日本独自のこの希有な伝統を継続可能にして来た、過去・現在・未来を結ぶ温故知新、不易流行の在り方は、
組織永続の最高のお手本だと言えよう。
「式年遷宮」の年に伊勢神宮に参り、世界に誇る日本の伝統を守り続けたい。