この連載コラムで4年前の同じ月(2021年3月)に。岩手県の陸前高田市に当時オープンした商業施設「CAMOCY(カモシー)」の話を綴っていました。
街に根づいていた発酵食の文化を、津波の被害を受けた地に再びはぐくもうというのが、このCAMOCYが掲げるテーマでした。
その特徴は2つ。まず、CAMOCYの運営も、施設内に入る店舗の経営も、地元・陸前高田で企業を営む有志たちが担っている点です。ベーカリー、食堂、惣菜店、チョコレート工房、クラフトビールのブルワリー…。いずれも外部からのテナント誘致ではなく、地元企業による新領域への挑戦でした。
もう1つは、(4年前のコラムでもお書きしましたが)それぞれの店舗が販売する商品がほぼすべて相当に値段が高いこと。パンはひとつ300〜400円台が当たり前のような感じですし、チョコレートは1300円前後、食堂のメニューも1000円台半ばです。ここ陸前高田の平均所得は低いといわれているのに大丈夫なのか。
それが大丈夫だったんです。観光客にもまして、地元の人たちが「自分たちの街の商業施設だ」と感じ取って、開店直後から相次いで訪れたといいます。
さあ、ここからです。開業1カ月で約6000人の来店と、絶好調なスタートダッシュを果たしていたCAMOCYですが、その後はどうなっているか。
先日、私はひさびさに陸前高田に足を運んで、CAMOCYを取材してきました。気になるのはまず、5つの店舗がちゃんと残っているのか、です。もしかして販売不振などで撤退していないか。
いや、すべてが元気でした。1店舗も欠けていません。では、集客状況はどうでしょうか。CAMOCYの運営メンバーに尋ねてみました。
「最初の年は約13万人。次の年から現在までは、毎年約12万人という水準を続けています」
えっ、勢いは決して失せていなかったのですね。開業から時間の経つ現在でも約12万人ということは、月あたり1万人の来店客があるという話ですから。
なぜ、ここまで成功を続けられているのか。
CAMOCYが最初に示した旗をおろすことなく掲げ続けたことにある、と私は感じています。
2021年の開業前後、周囲からは「こんなに値の張る店に誰が来るんだ」「コロナ禍のまっただ中にどう経営を成り立たせるのか」との声もあがっていたと聞きます。それでもCAMOCY立ち上げメンバーは、「陸前高田の人は決して呼応可なものを変えないわけではない。いいものを販売する店がなかっただけ」と踏まえ、当初の方針を崩さなかった。そして「大都市圏の百貨店バイヤーが注目するレベルの商品を揃え切るんだ」と踏ん張った。
実際、地元の人は振り向きました。たとえば1つ400円以上もする納豆を、毎週末に買い求めにくる人もいると聞きました。週の締めくくりの贅沢、という感じなのでしょうね。地元客それぞれが、その客の好む形でCAMOCYとの付き合いを続けている、という印象です
CAMOCYの運営メンバーたちには、同時に冷静な見立てもあった、と今回の取材で聞きました。
それは、このCAMOCYが、商品を売る空間であると同時に商品をつくって全国に発送する空間でもあるという点です。チョコレート工房、クラフトビール工房、ベーカリーなどは、「売る」と「つくる」2つの機能を備えており、それにより、十分に売り上げを確保でき、店舗運営が成立するという話です。そして事実、そうなりました。
CAMOCYの運営メンバーはいいます。「グランドオープンから5年目を迎えるCAMOCYは、3つのことを地元・陸前高田にもたらせたと実感できています」
その3つとは?
「地元の若い世代がここを離れることなく働く場所。次に外から訪れてきた人が立ち寄りたくなる場所。そして、地域のことを地域の言葉で知れる場所」
納得しました。この先のCAMOCYの姿も見つめ続けていきたいと感じさせる、そんな重みある言葉でした。