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- 第92回 文化人・芸術家を魅了した伝説の美酒「アブサン」が復活!
~「緑の妖精」と愛される一方、「魔酒」と恐れられた蒸留酒~
「アブサン」をご存知だろうか?
「緑の妖精」「緑の女神」と呼ばれ、ピカソ、モネ、ドガ、ゴッホ、ロートレック、モディリアーニ、ランボー、ヘミングウェイといった、歴史に名を残す数多くの文化人・芸術家が愛飲した蒸留酒だ。
「アブサン」は、精神を高揚させ、感覚を研ぎ澄まし、インスピレーションを引き出す神秘的な霊酒として、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、フランス・パリを中心にヨーロッパ各国から世界的に人気を呼んだ。
日本でも太宰治をはじめする多くの芸術家を魅了し、かつて国内でも製造されていた。
●エメラルド色から乳白色に変化する芸術的かつ魅惑的な薬用酒
「アブサン」の元の色は主にエメラルド色(透明のものもある)だが、含有成分のため、水に触れると乳白色に変化する。
その色が美しく変貌する様も芸術的かつ魅惑的だ。
もともと、15世紀頃、中世ヨーロッパの錬金術師が、ヘルメス神秘学やイスラムの秘儀を取り入れ、古代ギリシアから中東を経由して伝わった蒸留器を使って「アブサン」の原型を作ったと言われる。
1792年にスイス人医師のピエール・オーディナーレ博士が、胃腸の強化や風邪などの鎮痛、解熱作用がある薬用酒として、独自の製法で「アブサン」を開発した。
そして、北アフリカのアルジェリア侵略戦争に従軍したフランス兵たちが赤痢予防のために「アブサン」を日常的に飲んでいたところ、帰還後も飲み続けたことがきっかけとなって本国で大流行した。
●1世紀にわたり禁止された「禁断の酒」「悪魔の酒」「魔酒」
ところが、芸術家の中には「アブサン」のとりこになって、ついには身を滅ぼす人も少なからずいて、主成分のニガヨモギの香味成分であるツヨンが幻覚作用を引き起こすと噂を呼び、抗議運動が巻き起こった。
そのため、20世紀前半から約100年近くも製造が禁止されていたのだ。
「アブサン」が「禁断の酒」「悪魔の酒」「魔酒」などと称されるゆえんである。
しかし、1995年に、WHO(世界保健機構)が再検証したところ、「アブサン」の主原料のニガヨモギの成分であるツヨンの毒性は強くないことが判明した。
つまり、実は成分の問題ではなく、アルコールの過剰摂取によって中毒となり、体を壊す人が数多くいたのだ。
あるいは、爆発的に人気を呼んだため、荒稼ぎしようと工業用アルコールに着色するなどして製造された粗悪な模造酒を飲んだ人が健康を害したのだと考えられている。
●2011年に復活した“蒸留階級”御用達の「パワー・ブーズ」
そして、2011年、フランスでようやく製造が認可され、ヨーロッパ各国でも続々と復活し、日本でもさまざまな「アブサン」が楽しめるようになって来たのだ。
今や東京でも恵比寿や銀座などで、伝説の美酒「アブサン」を数多く取り揃えたBARが人気を博している。
1世紀にわたって「アブサン」の代用品だった、同じように水に触れると白濁するアニス系の成分を含む「ペルノ」「リカール」「サンブーカ」などをたしなんで来た私のような大人世代から、平成末の新たな文化やビジネスを生み出すクリエーターやアントレプレナーといった“蒸留階級”御用達の「パワー・ブーズ」(POWER BOOZE)となりつつある。
●「アブサン」(ABSINTHE)の成分と製造法
復活した「アブサン」(フランス語:ABSINTHE)は、現在、フランス、スイス、チェコ、スペインを中心にヨーロッパ各国で、300~400種類ほど造られている薬草系リキュールの一つだ。
一般的には、ニガヨモギ、アニス、ウイキョウ、リコリスなどを中心に複数のハーブ、スパイスを、ブドウや穀物から造られた高濃度のスピリッツに漬けて再蒸留にかけて製造される。
アルコール度数は40~80%もあり、ワインが14%程度、ウイスキーの平均が43%なので、相当に強い酒だ。
その多くは幻想的なエメラルド色を帯びている。
水を加えると度数が低くなるため、高濃度のアルコ-ルに溶け込んでいるアニスやフェンネルに含まれる非水溶性の精油成分の分子の周りに膜ができて析出する。
この分子が光を乱反射するため、水を加えると乳白色に白濁するのだ。
●「アブサニスト」になるための秘密結社的な伝統的儀式
「アブサン」は他のリキュールとは異なる独特の香りと味を有する。
お酒の強い人でもそのまま最初に飲んだ時は、「何、これ?」と感じるが、徐々にその神秘的な魅力のとりこになってしまう。
ストレートやロック、水や炭酸で割って飲んだり、カクテルの素材にも用いられる。
しかし、「アブサン」には秘密結社の伝統的儀式がごとき特別な飲み方がある。
まず、「アブサン」を注いだグラスの上に、専用の穴があいた装飾的な形状のアブサンスプーンをグラスの上に渡してその上に角砂糖を置く。
角砂糖の上から水を垂らして行くと、エメラルド色の液体がたちまち乳白色に変わって行く。
BARでは、グラスの上に渡した角砂糖を「アブサン」で湿らせて着火し、ミネラルウォーターを注いで消火し、アブサンスプーンでよく混ぜて提供するのが、クラシックスタイルとされている。
また、「アブサン」の名産地の一つで、フランス東部のスイス国境近くの町、ポンタルリエの名を冠したポンタルリエグラスという独特の道具が用いられることもある。
球形の液溜めの上にグラス型の部分を乗せた独特な上げ底の脚付きグラスで、液溜めの部分に「アブサン」を注いでから水を加える。
水を滴下するために使用する水差しにも、カラフェ、ファウンテン、ブロウラー(ドリッパー)といった「アブサン」専用の独特な形状の器具が存在する。
一連のおごそかなイニシエーション(通過儀礼)を体験すれば、貴殿・貴女も今夜から「アブサニスト」(アブサン党員)の仲間に迎えられる。
さあ、同志よ、「ア・ヴォートル・サンテ!」(A Votre Sante!=フランス語であなたの健康に乾杯)と、ともに杯を挙げよう!
●日本発の「アブサン」が貴殿・貴女の食体験の禁断の扉を開ける!
今や日本製のウイスキーをはじめ蒸留酒が世界的に評価が高まっていることは、私のコラムで以前に紹介させていただいた。
“蒸留階級”の洋酒ならぬ《邦酒》ブーム到来?~日本のスピリッツが世界を酔わせる時が来た!~
「アブサン」が世界的に復活を遂げている昨今、日本における“蒸留階級”の聖地となっている鹿児島県南九州市頴娃町(えいちょう)の「佐多宗二(さたそうじ)商店」の赤屋根製造所が、ついに、日本発の本格的な「アブサン」の生産を開始し、「アブサニスト」の間で大きな話題を呼んでいる。
なんと、それも、「アブサン」の主原材料となるニガヨモギを、何度も失敗を重ねつつ、薩摩の自社の畑で完全無肥料・無農薬で作ることに成功し、完成に漕ぎ着けたのだ。
その名も「AKAYANE アブサン クスシキ 2018」は、ニガヨモギ、スターアニスを中心に39種のボタニカル素材を使用して造った「アブサン」である。
ハーブ、スパイス、果物、野菜などから香りとエキスをふんだんに抽出し造り挙げられた、欧州産に勝るとも劣らない、複雑味の溢れる仕上りの銘酒だ。
前述のように、「アブサン」は中世の錬金術師が、当時の最先端技術であった蒸留によって造った薬用酒がもとと言われる。
商品名の中の「くすしき」とは、薬の語源となったやまと言葉で、神秘の美酒「アブサン」にふさわしく、「不思議な・神秘的な」という意味があり、名づけられた。
ボトルは液体に紫外線によるストレスがかからないよう、薬材を入れる素材で作られた特注品である。
150年前、日本の開国の旗頭となった薩摩の蔵で育まれた、日本発の「アブサン」のフラッグシップ「AKAYANE アブサン クスシキ 2018」が、貴殿・貴女の食体験における禁断の扉を開けてくれるに違いない。
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