全国各地の商店街がシャッター街となる中、開いてる店が少ない"少店街"を、
"おもしろポスター"や"おもしろ看板"で、笑いが絶えない「笑店街」にすることによって、
多くの人が足を運ぶ観光名所となる地域が誕生している。
生きた"お笑いポスター・看板ミュージアム"と化した商店街を訪れる老若男女が、
笑い声を上げて吹き出しながらスマホでポスターの写真を撮り、
ツイッターやフェイスブック、インスタグラム、LINEなどSNSにアップする姿は、
各地で街の新(珍?)風景となっている。
以下、ユーモアとペーソスあふれる、名作ならぬ「迷作"(謎作?)ポスター・看板」の
傑作を集めてみた。
◆「買わんでいいから見に来てや」?~「新世界市場」(大阪市浪速区)~
ボケとツッコミの都、大阪では、「買わんでいいから見に来てや」を合言葉に、
若手クリエイターと商店街のコラボによって創作されたおもろいポスターが、
シャッター街を次々と笑いがあふれる「笑店街」によみがえらせ、注目を集めている。
きっかけは2012年に、広告代理店のコピーライター日下慶太さんの呼び掛けにより、
地元のデザイナーやコピーライターがボランティアで、
通天閣近くの商店街「新世界市場」に並ぶ約20店舗の店主を主人公にしたポスター展を
催したことだった。
「昔は人ゴミで見えへんかったんや。今はボーリングできるけどな」、
「お客様は神様やっていうけど、うちの常連さんは半分くらい仏様になってしもうたな」、
「ねぇ奥さん、本当はMなんでしょう(ご近所の女のカラダを知り尽くしている男)」(婦人服・肌着店)、
「締めつけてちゃ下は育たない」(ふんどし店)
といったインパクトのあるコピーとシュールなビジュアルのポスターは大きな話題を呼び、
何度新たに掲示しても盗まれるほどの人気を博している。
◆魚拓ならぬ店主の「人拓」?~「文の里商店街」(大阪市阿倍野区)~
「新世界市場」の成功事例が、大阪商工会議所の流通活性化委員会主催の商店街フォーラムで
紹介されたことから、会議所と広告代理店がタッグを組み、他の商店街にも活性化策として
活用する運びとなった。
そして、候補としてリストアップした中から、近隣に相次いで大手スーパーが出店し危機感を
募らせていた「文の里商店街」を、次の実施先に選定した。
「アホにつける薬はあれへん」のコピーに思わずニコリとしてしまう薬局のポスター
など、クリエイター約60人がボランティアで50数店のユニークなPRポスター約200枚を制作し、
店頭などに掲示した。
また、商店街とネットでポスターの人気投票を受け付ける総選挙を実施。
デザイナーの瀧上陽一さんとコピーライターの前田将多さんが手がけた大嶋漬物店の作品が
グランプリに輝いた。
店主が高齢を理由に閉店を決めていたが「50年商売をした記念に作ってほしい」とのことで制作した、
それらの涙が出るほどおもしろいポスターは、街行く人はもちろん、ネット上の話題をも席巻。
◆それってマジで警察のポスター?~大阪府警・大阪府薬剤師会~
「ごめんですんだら、警察いらんわ!!」や「草食系より大阪府警」
といった、民間企業でもなかなか使えないキャッチコピーで話題を呼ぶ「大阪府警」の警官募集ポスターをはじめ、
大阪では、お堅いところのポスターも民間に負けず劣らず、街のおもしろパワー向上に一役買っている。
大阪府薬剤師会と吉本興業がコラボした「薬物乱用撲滅キャンペーン」(2010年)のポスターも
かなりシュールだ。
◆「あーいたんだ。存在感もうすいけど頭もうすいね」~地下街「メトロこうべ」~
一店舗の"おもしろポスター"が商店街全体を一躍有名にすることもある。
ゲームセンター「メトロプレイランドZOO」のポスターが、突如として全国的に注目を集め、
神戸・新開地駅地下街「メトロこうべ」は地元紙はもとより、全国ネットのテレビでも
もともと、「メトロこうべ」が開催したPRイベント「見とこ! 行っとこ! ポスター博覧会」で
公開されたもので、イベント終了後も店頭に展示されていた。
それを関西を中心に活躍している放送作家の吉村智樹さん(@tomokiy)がツイッターで、
「ヤバいポスターがある!」と評判を呼び、
ツイッターで話題になっていることをランキングで紹介する「ついっぷるトレンド」の
エンタメニュース部門でも全国3位に躍り出た。
このポスターを見るために、わざわざ遠回りして地下街に足を運ぶ人が跡を絶たない。
悲哀を笑いに変えてしまう"おもしろかなしずむ"こそ、"街場"のパワーの源泉だ。
◆「兼六園までほふく前進であと5分?」~金沢・苗加不動産~
北陸では、苗加(のうか)不動産という不動産会社のオヤジギャグ看板が、
保守的といわれる金沢の街の名物になっている。
交番の上に「『苗加』を『なえか』と読んだ人、タイホします」という看板を設置したり、
「兼六園までほふく前進であと5分」「湯涌温泉まで、うさぎとびであと8時間」
などといった、ユニークなコピーの看板を掲示して話題を呼んでいる。
2012年末には、フジテレビ系の「めざましテレビ」で、
元自衛官のお笑いタレントが、実際に兼六園までほふく前進で5分で行けるのか試みたところ、
結果は3倍の15分もかかったそうだ。
数々のおもしろコピーは、社員と地域のクリエーターで考えており、
地域住民のみならず、観光客にも好評だ。
しかし、その後、これらの看板の一部が金沢市の是正指導を受けて撤去されるというニュースが
駆け巡った。
一部では、「警察をおちょくった看板がお上の反感を呼んだのでは?」といった憶測も流れた。
実際は、同社のみならずなし崩し的に市内に広がっていた、
看板の大きさに関する市の屋外広告物設置基準に違反していたため、一部に是正が勧告されたのだった。
江戸のおもしろ川柳のようなコピー看板は、江戸情緒が残る古都金沢らしい看板だと言えなくもない。
◆「あーと(アート)驚く"きもカワイイ"看板"」~兵庫県・有馬温泉~
全国的に有名な温泉街である兵庫県・有馬温泉のあちらこちらから、
観光客の「ギャァ~!怖い」「気持ち悪い!」「グロい!」といった声が聞こえる。
その対象は街の路地裏に設置された"不気味な看板"だ。
しかし、皆さん、気持ち悪がりながらも、その前で記念撮影するなど
楽しんでいる様子にも見受けられる。
これらの"きもカワイイ"看板は、話題づくりのためにデザイナーに依頼して作成し、
路地に観光客を誘導するべく設置されたものだ。
地元のお店の店主のデフォルメした顔写真を、子どもや動物の体に付けた、
不思議というより、まさに不気味な意味不明の作品ばかりである。
しかし、訪れた人たちが次々とSNSに写真をアップすることで話題を呼び、
全国ネットのテレビでも紹介され、集客力の向上に貢献している。
まさに、"あーと(アート)驚く看板"である。
◆商店街成功のカギは「ショッピング・エンターテインメント」にあり!
今や何でもネットで買える世の中になった。
しかも、リアルのショップで買うよりネットで買う方が、
さまざまな店のいろいろな商品を比較検討できる上に、
店舗の賃料もかからず人件費も抑えられるため価格が安い場合も多く、
さらには自宅まで配送してくれるので便利で楽だ。
路面のリアル・リテール(小売)ショップで強いのは、ファッションも飲食も、
グローバル展開を図るファストファッションやチェーン店ばかりになりつつある。
各地の商店街と各々の商店が、ますます進展するネット社会とグローバリゼーションの中で
生き残るには、街でリアルに買い物をすることでしか味わえない、
"街的"な楽しさ、おもしろさを演出することができるかどうかにかかっている。
これからの商店街成功のカギは、"おもしろポスター・看板"のような、
その場に行ってこそ楽しめる「ショッピング・エンターテインメント」にある。
「笑う門には福来る」という通り。まさに「笑う街には客来る」なのだ。