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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第31回 『その広告は大丈夫?』
アパレル業を営む安斉社長は、新規で高品質のイタリアメーカーのストールを取り扱うにあたり、大々的な広告宣伝を行おうと考えています。広告については、時々、マスコミなどで、排除命令が出されたことなどを見聞きするため、念のため顧問弁護士である賛多弁護士に新しい広告についてリーガルチェック(弁護士などの専門家に法的に妥当であるかを確認してもらうこと)をしてもらおうと考え、賛多法律事務所を訪れました。
* * *
安斉社長:先生、今度、弊社でイタリアメーカーの高級ストールを取り扱うことにしました。本当に、暖かく、肌触りも抜群で、身に着けると、癒されるようなよいストールなんですよ。そこで、広告で、良い商品であることを伝えたいと思い、パンフレットなどにおいて、「この技術を用いた商品は日本で当社だけ」、「カシミヤ100%」などの表示をしたいと考えています。特に問題はないですよね。
賛多弁護士:まず、「この技術を用いた商品は日本で当社だけ」の方ですが、この技術というのは、どのような技術なのかを明確にすることが必要ですね。
安斉社長:それは、大丈夫です。
賛多弁護士:その技術についてですが、実際は競争業者も同じその技術を用いた商品を販売していたりしませんよね。
安斉社長:特殊な技術ということなので、たぶん、日本の取扱いは弊社だけだとは思いますが、はっきりはしません。
賛多弁護士:仮に、実際は競争業者も同じその技術を用いた商品を取り扱っているような場合、景品表示法の優良誤認表示に該当する可能性があります。
安斉社長:景品表示法の優良誤認表示ですか?
賛多弁護士:そうです。景品表示法というのは、正式には「不当景品類及び不当表示防止法」といって、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止」して「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護すること」を目的とする法律です。
この法律では、不当表示の禁止や不当な景品類の禁止等について規定しています。そのうち不当表示としては、優良誤認表示や有利誤認表示などを禁止しています。
安斉社長:優良誤認表示とは、どのような表示ですか。
賛多弁護士:優良誤認表示としては、商品、サービスの内容について、一般消費者に対し、「実際のものよりも著しく優良であると示す表示」と「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示」があります。
安斉社長:実際は競争業者も同じその技術を用いた商品を販売しているとすると、後者の「他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示」に該当するというわけですね。
賛多弁護士:そのとおりです。
安斉社長:「カシミヤ100%」の方は、どうですか。
賛多弁護士:こちらは、今回広告の対象となるストールは、カシミヤ100%ということで、間違いはありませんよね。
安斉社長:ほとんどはそうです。ただ、色によっては、5%程度、カシミヤ以外のものが混じります。
賛多弁護士:そうしますと、こちらは、「実際のものよりも著しく優良であると示す表示」の該当性が問題となります。
安斉社長:問題点は分かりましたが、通常、広告には多少の誇張は含まれるのではないですか。
賛多弁護士:おっしゃるとおりです。広告や宣伝の表示においては、その商品やサービスを選んでもらいたいため、ある程度の誇張がなされるのは一般的であり、一般消費者もある程度の誇張が行われることを折り込んでいることから、通常、広告や宣伝に通常含まれる程度の誇張は一般消費者の適切な選択を妨げないものとして許容されます。
安斉社長:そのような場合は、先ほどの「著しく優良であると示す表示」に該当しないということですね。
賛多弁護士:そのとおりです。この許容される程度を超えて優良であると表示する場合が、優良誤認表示にあたるのです。許容される程度を超えるものであるか否かは、その表示を誤認して顧客が誘引されるか否かで判断されます。
安斉社長:なるほど。優良誤認表示か否かについて適切に判断するほか、優良誤認表示について、何か事前に気を付けることはありますか。
賛多弁護士:優良誤認表示があった場合、消費者庁長官は、その表示を行った事業者に対し、期間を定めて、その表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。また、この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときや、表示の裏付けとなる「合理的な根拠」とは認められない資料を出したときは、その表示は優良誤認表示とみなされ、不当表示として,その行為の差止めや違反したことを一般消費者に周知徹底することなどを命じる「措置命令」という行政処分を行うことができますし,また,「課徴金納付命令」との関係では,優良誤認表示と推定されます。そこで、表示の合理的な根拠となる裏付け資料を備えておくことが考えられますね。もちろん、優良誤認表示とならないように、表示をする場合に表示根拠となる情報の確認をすることが前提です。
安斉社長:今お話のあった「合理的な根拠」の判断基準はどのようなものですか。
賛多弁護士:客観的に実証されたものであること、表示と実証内容が適切に対応していることです。
安斉社長:そうなんですね。商品が素晴らしいことをお伝えしたいだけなのですが、いろいろ、注意しなければならない事項があるのですね。
賛多弁護士:そうですね(笑)。いつでも、ご相談ください。
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景表法では、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止して、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的として、不当表示の禁止や不当な景品類の制限・禁止について規定しています。今回は、不当表示(景表法5条)のうち、優良誤認表示(同条1項)について説明しましたが、二重価格表示等の問題など有利誤認表示(同条2項)等についての問題もあります。不当表示として景表法に違反しないためには、社内において、①景表法の考え方の周知・啓発、②表示をする場合の表示根拠となる情報の確認の徹底、③合理的な根拠を示す資料の保管、④不当な表示が明らかになった場合の適切な措置体制等、管理上の措置を講じておくことが有益です。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子