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人事・労務

第16講 「経営者の孤独」はなぜ危険か
―持続的な強さのための4つの処方箋

顧客・社員・社会から支持される「ウェルビーイング経営入門」

対処の第一歩は「自分の状態に気づく」こと

 孤独には、概ね二種類あります。ひとつは、対人関係に乏しく、会話や活動が目に見えて少ない状態です。「目に見える孤独」とも言えるでしょう。もう一つは、一見すると活発に活動し対人関係も豊富だが、その本心や大事な心中を話せないという孤独状態です。「目に見えない孤独」とも言えます。

 経営者の孤独は、どちらかというと「目に見えない孤独」に属する場合が多いでしょう。この場合、本人も周囲も気づくことなく見過ごしがちです。しかし、気づかない間にも、孤独は状態を少しずつ悪化させているかもしれません。経営者の皆さんは、自分の状態に気が付くことが第一歩なのです。「目に見えない孤独」には下記のようなサインがあります。

 ・自分の状態を最近、周りに話していない
 ・社内でたわいのない雑談が苦手になってきた
 ・疲れがとれず、いつも心が張りつめている
 ・判断に時間がかかるようになってきた
 ・周囲の声が遠く感じる
 ・昨日何を食べたか覚えていないことがよくある

 こうした変化があるなら、それは疲れや孤独を示す心のサインかもしれません。

 経営者自身が「自分に起きていること」に意識的になるだけでも、視点は大きく変わります。そしてそれが、よりよい意思決定や健全な対人関係の再構築へとつながっていきます。心のサインを見落とさずに対処すべきタイミングをつかみましょう。

 

経営者の孤独に対処する4つの処方箋

 では、こうしたサインに気づいたら、具体的にどう対処していけばよいのでしょうか。以下に、Conradらの研究や現場での実例をふまえて、実践的かつ効果的な対応策を処方箋として整理しました。

1. 信頼できる社外ネットワークをもつ
 社内では言えない悩みも、同じ立場の経営者同士であれば率直に共有できることがあります。利害を伴わないつながりは、孤独感を和らげ、判断の健全性を保つためにも重要です。経営者としての大変さは経験した人にしかわからないこともあります。共感しあえる関係性は孤独を大いに和らげます。

2. エグゼクティブコーチングを活用する
 コーチングは、自分のテーマについて自由に話すことができる貴重な場として、欧米の経営陣の大半が活用しています。第三者的視点からの問いかけと率直な対話を通じて、思考の整理や自己理解が進みます。コーチングの良さは、信頼でき、利害関係がない相手との定期的なセッションによって、感情や内心の状態を客観的に振り返ることができる点にあります。経営者には、自分の内心を常に語れる信頼できる相手が必要です。

3. 客観的なフィードバックを受け取る仕組みをつくる
 経営者は、フィードバックを受ける機会が案外少ないものです。フィードバックというと、ネガティブなことを想起する人も多いでしょうが、実際には、感謝や承認のメッセージを受けとることも大いにあります。日常的に社内外からフィードバックを得られるような仕組み(例えば定期レビューや360度評価など)を整えることで、自己認識が深まり、孤立を防ぐことができます。

4. あえて「会社の外」で学ぶ時間をもつ
 経営とは直接関係のないテーマ —―たとえば、自己理解、マインドフルネス、コーチング、ウェルビーイングなどを学ぶことは、人生の視野を広げ、内面的な安定をもたらします。こうした学びは、一見遠回りに見えても、長期的には企業経営に確かな力をもたらします。日々忙しい経営者は、自分の時間がとりにくいかもしれませんが、経営者の器以上に組織は成長しないとも言われます。自分を整え人間的に成長する学びは、眼に見えない孤独に対する大切な処方箋になり、長期的な組織成長に大いに寄与するでしょう。

 

自分のウェルビーイングが組織を変える

 経営者は、つい「会社のことが最優先」と考えがちですが、経営者の孤独は、さまざまな観点で組織の成長を止めてしまうリスクがあります。目に見えない孤独を放置せず、経営者自身が健全で創造的であることが、組織全体の活力や方向性に直結します。

 ぜひ、自分自身に目を向け、孤独のサインに気が付いたときには上記の処方箋を試しみてみてください。経営の道は時に厳しいものですが、経営とは、事業によって社会を前に進めていく素晴らしい仕事です。経営者の皆さんが幸せでありますように願っています。

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