「誰にも言えない」経営者のリアル
経営者は組織の未来を託され、常に決断と重い責任を伴う立場にあります。その一方で、同じ目線で語り合える相手が社内にいない、自分の思いを率直に語りづらい、疲れや不安といったネガティブな表現を控える結果孤独感を抱くなど、特有の心理的負担にさらされています。
私自身、顧問やエグゼクティブコーチとして多くの企業経営者と接するなかで、「社内では本音を話す場がない」「役員同士でも互いに遠慮して、率直なフィードバックを得にくい」「社員の前では強いリーダー像を演じているが、実は不安がある」といった声を、頻繁に耳にしています。経営の数字や戦略については語れても、自分の状態や気持ちについては、なかなか言葉にできない、経営者としての強い責任感の裏側にそんな現実があるように思われます。本記事では、この「経営者の孤独」がもたらすリスクと、対処法について取り上げます。
孤独が経営に与える影響 ―研究にみる実態
こうした「経営者の孤独」は経営者自身の状態を悪化させる可能性がもちろんあります。孤独はプレッシャーや行き詰まり感を増幅させるからです。さらには、そうした個人の問題にとどまらず、組織の意思決定や組織マネジメントの質にも直結するのです。
実際、オーストラリアの経営学者Conradら(2022年)がカナダで行った大規模研究によると、
・経営者の51%が「孤独を感じている」
・そのうちの61%が「孤独がリーダーシップのパフォーマンスに悪影響を及ぼしている」
と述べています。
さらに、孤独を感じている経営者は
・チームとの信頼関係の構築や的確なフィードバックの受け取りに困難を感じやすい
・リスクテイクやイノベーションに消極的になる
といった傾向も指摘されています。
つまり、経営者の孤独感は、企業の持続的な成長にとって悪影響を及ぼしていることが明らかになったのです。
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