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人間学・古典

第27回 「泣いて馬謖を斬る」 孔明の決断

経営に活かす“十八史略”

 企業の本質は軍隊と同じです。

 目的・目標を決め、その実現に向けて戦略・戦術を組み立て、集団で実行するのです。集団で動くわけですから、前回、述べたようにルールを決め、きちんと運用しなければなりません。

 もちろん、昔の軍隊のように「敵前逃亡は銃殺刑」などというほど罰を重くすることは出来ませんが、上層部の命令に従わない者はそれ相応の罰を与える必要があります。その者がどんなに社長のお気に入りであっても罰しなければ、組織がもちません。

 「十八史略」で、諸葛孔明(しょかつこうめい)が愛弟子の馬謖(ばしょく)を斬ったあたりを読んでみましょう。

 魏(ぎ)、呉(ご)、蜀(しょく)の三国が並び立つ中、蜀では初代皇帝である劉備玄徳が亡くなり、その遺志を継いだ諸葛孔明が大将となって魏を攻めました。

 孔明の漢軍は陣立ても整然としており、号令も厳かな雰囲気が漂ってハッキリとしていました。

 最初、魏の方では、劉備が死んでから数年間ひっそりとして何の噂もなかったので、漢に対する軍備をほとんど怠っていたのです。そこへ突然、諸葛孔明が攻め込んできたと聞いて、朝廷も民間も震え上がりました。

 そこで魏の側では張郃(ちょうこう)という武将を将軍とし、漢軍を防がせます。孔明は要所である街亭(がいてい)の守将に馬謖(ばしょく)を任命しました。

 このとき、馬謖は孔明の指図通りにせず、大敗北を喫してしまったのです。「十八史略」には詳しく書いてないのですが、他の文献によれば、孔明が道筋を押さえるように命じたのに対し、馬謖はこれに背いて山頂に陣を敷き、その結果、敵に水路を断たれて孤立、惨敗を喫したというものでした。

 命令違反に加えて惨敗した将を生かしておけば悪しき前例を生み、法律が軽く扱われるようになると共に、人民の国に対する信頼感も薄れてしまいます。

 諸葛孔明は平素から馬謖と親しくしていましたが、命令違反で敗戦を招いた責任を負わせました。泣いて馬謖を斬ったのです。政治は公平でなければなりません。

 ただ、諸葛孔明は、馬謖の遺族に対しては手厚く遇しました。諸葛孔明が亡くなったとき、彼によって免職にされてしまった2人の男が涙を流してその死を嘆き、そのうちの1人は悲しみのあまり、とうとう病床について死んでしまったといいます。「三国志」でも、

 「諸葛亮はまごころを尽くして、公平な政治を行った。刑罰や政事は厳正を極めたけれども、それを怨む者はなかった。政治の仕方を心得た逸材であった」

 と述べています。

 法の運用は厳格でなければなりません。企業においても、例えばA君とB君が同じように遅刻しているのに、日ごろの勤務態度がまじめなA君は大目に見て、やや不まじめなB君のみ罰するということではいけないのです。同じ罪には同じ罰を与えねばなりません。 

 また、罰を与えた相手には、つい厳しく当たってしまいそうですが、諸葛孔明はあくまでも公平に接しました。

 孔明によって免職にされた男が孔明の死を嘆いたというのですから、いかに孔明が感情に流されず、他人と接する人物であったかが分かります。孔明も人間ですから人の好き嫌いはあったでしょうが、立場上、一切、好悪の感情を出さなかったのでしょう。

 上司が部下に対するのは、教師が生徒に対するのと同じ

 でなければなりません。

 よい点は誉め、悪い点は叱る。しかも、すべての部下に公平、平等に接することが出来なければならないのです。

 あなたが叱った部下は、あなたの死に涙を流すでしょうか。そんな社長であれば、会社は存続、発展し続けることでしょう。

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